成代 | ナノ









※剣城成り代わり・女主





晴天の青空。

眩しいくらいに照りつける太陽は、アスファルトに反射してさらに明るい世界を作り出す。

そんな世界で辺りを気にする訳でもなく真っ直ぐ突き進んでいく影は、明るい世界では一際目立つ。

影―――――彼女のような存在は類を見ないからだ。



彼女の名は剣城なまえ。

この春、雷門中学へサッカーのシードとして入学した。

入学当初とは違い、今では少しだけだが明るい世界に馴染んで来ているのだが、やはり彼女自身から放たれるオーラのようなものは並外れていて。

周りから浮いている、というよりは目立っていると表現したほうがいいだろうか。



「………げ、」
「あ、おはようなまえッ!」



線の細い顔立ちで、氷のように整った美貌。

周りの中学生とは比にならない程の落ち着いた雰囲気を漂わせながら歩いていたなまえは、後ろから迫ってくる何かにその顔を歪めた。

ああ、勿体ないと思った周りの心知らず。

うわ、またアイツかよ。

なまえは不機嫌丸出しで一瞬ちらりとだけ後ろを振り向くと、構わず歩きだした。

無意識の内にだろうが、さっきよりも少しだけ歩調が速くなっている気がする。



「ちょ、ちょっとなまえってば!」
「…」
「無視しないでよ!」



朝から騒がしい。

なまえはポニーテール気味に纏めた髪を不機嫌に揺らしながら、後ろの茶色の犬のような存在を視界に入れることなく歩いていく。

部活が一緒なのだから、百歩譲って部活で関わるのはしょうがない。

でも、日常では絶対に関わりたくない。

なまえから放たれる不機嫌オーラに怯む事なく、なまえに近づいていく茶色―――松風天馬は、無視されているのに嬉しそうである。

うわあ、気持ち悪い。

益々なまえは眉間に皺を寄せた。

コイツドMかよ。

構ってやるほどわたしは暇じゃないし、アンタのことすきじゃないし。

そんな思いを込めて一睨みして、また歩き出そうとしたなまえの手に、何やら変な感触が…



「………なに」
「え?なにって…」



―――手、繋いでるだけだけど?



当たり前でしょ?何をいまさら、とでも言いたそうな顔で答えた天馬に、なまえは振り解こうとしたが、天馬は顔に笑顔を貼りつけたまま、凄い力で握ってくる。

うわ、マジでなんなのコイツ…!

握力半端ない。



「離してよ、」
「え?何か言った?」
「だから、離せって…!」
「なまえの手、ちっちゃいんだね、かーわいー!」
「はあ?!
ちょ、いい加減にしてよッ?!!」



ああ、その顔でそんな酷いこと言わないで!

天馬と周りの心が一致していることを、なまえが知るわけがない。

なまえは、コイツはやっぱりドSだったのか、なんて考えていた。

いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。

何でコイツなんかと手を繋がなきゃいけないんだ。



「どうしたの?なまえ
早くしないと朝練遅れちゃ…」
「しつこいヤツは嫌いだ」
「え?どうしたの急に?」
「それに、暑苦しいヤツも嫌い」
「ああ、もしかしてオレに言ってる?」
「もしかしなくてもアンタだって」



思いっきり厭味をぶつけたのだけど、それで怯む天馬じゃない。

ああ、分かってたけども。

こうもメンタル強くてポジティブ野郎だと、逆に心配だわ。



「ま、なまえの嫌いは照れ隠しだって、ちゃんと分かってるからさ!」
「は?何言ってんのマジで
アンタ冗談はその髪型だけにしなよ」
「もう、なまえったら照れちゃって、かーわいー!」
「はあ、もう嫌だわ」



松風天馬は、何かとなまえに関わってくる男である。

なまえは基本的に男子とは話さないし、サッカー部ならば兄より上手でなければ興味すらない。

幼い頃からそうだった。

だからサッカー初心者で、おまけに馴れ馴れしいヤツは、なまえの眼中には無いのである。

視界に入れるだけでも鬱陶しい。

冷めてる?いいえ、自分の気持ちに正直なだけです。



そんななまえのことなんて知らずに―――――いや、知っていても土足でずかずかと踏み込んで来るか、コイツは。

しかも土足と言っても、きっと泥だらけなくらい無礼なレベルで。



「はあ、」
「え?溜息?
どうしたのなまえ?何か悩み事?」



アンタのせいだよ。

冷たく言い放って、握られた手を精一杯の力で振り切ると、なまえはもっと足早にその場を去った。















なまえの後ろ姿を見つめて、天馬は満足気に笑みを浮かべていた。

どう表現するべきかは難しくて分からないが、おそらく機嫌がいいのだろう。



(うん、前よりも話してくれるようになった)



天馬は、振り払われた手の感触を確かめるように握ってから、学校へと歩き始めた。

入部当初は口すらきいてくれなかったなまえ。

何とか彼女の視界に入ろうと、少し強引にではあったが、関わるようにして正解だった。

きっかけなんて覚えていないけど、天馬はなまえに一目惚れした。

それから、必死になまえに話し掛けている。

本音を隠し切れずに変態扱いされるのも度々あるが、まあ相手にされないよりはマシだろう。



天馬は周りからポジティブだとよく言われる。

でも天馬だって、人間な訳だから、ショックだって後悔だってする。

ただそれを、なまえは必死に隠しているような気がして。

放っておけなくて。

彼女から放たれる別次元のオーラが、周りに彼女のことを買い被らせているのだろう。

でもそんなの、可哀相だ。



(うざがられてもいいさ)

(それで、少しでもなまえが笑うなら)



愛想笑いじゃない、心からの笑顔が見たいから。

天馬は今日も強引に、なまえに関わっていった。

今日は何をしよう。

パンツ見せて、とか?










欲しいのは塵ほどの原石



「こんの、変態ッ!!」

天馬は、なまえから容赦ない平手打ちを食らった。

(ちょ、ちょっとそれはまだ早かったかなあ)
(でも、あれ、なんだろう…)

「なまえ、もっかい変態って言って!」
「うわ、なんか目覚めてるよコイツゥウウ?!!」

天馬が何かに目覚めたと同時に、なまえとの距離がリセットされた。
え?元々距離縮まってなんかないって?

「なまえのツンデレ☆」
「……転校しようかな」







管理人が書く変態、なぜシリアスになるんだろうか。
ただの変態じゃなくて、天馬はちゃんと考えてるんだよ!っていう自己満足な補足を加えました。

遅くなってしまって申し訳ありません!
剣城はクールな感じなんで、あんまり取り乱すような女の子にはならないんじゃないかという、完全に管理人得。
天馬の変態っぷりが足りないですよね、すみません、管理人の力不足です…

リクエストありがとうございます!前サイトの3周年企画:ユキさまのみフリーでした。


お題:alkalismさまより


11_11_07






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