※ツナ成り代わり2・女主
勉強机にベッド、本棚にCDコンポと、一見シンプルな、且つ必要最低限のもののみが揃った部屋に、自身の革張りの椅子を運んでもらったディーノは、緊張のあまりに激しく波打つ左胸を押さえた。
(落ち着け、落ち着くんだ俺。)
自宅とは違う家の匂い―――否、自分とは違う、異性の匂いがする部屋は、普段なら気にしないはずなのに、今日は何故か意識してしまう。
一向におさまることなく、寧ろ激しく波打つ心臓を落ち着けようと深呼吸をしたものの、どういう訳か、椅子から転げ落ちた。
「相変わらず、へなちょこだな」
「う、うるせえよ!」
ディーノは立ち上がって、慎重にゆっくりと椅子に腰を降ろし、溜息をついた。
今日は、ディーノにとっては特別な日だった。
師が新しい弟子を持ったことは、前々から知っていた。
それが、女の子だということも知っていた。
初めての妹弟子。
あの激恐最強家庭教師の弟子になったのだから、かなり強い女の子なんだろう。
そう、思っていた。
しかし、度々師から聞く話では、かなり臆病で、繊細な普通の女の子だという。
仮にも、あのボンゴレのボスになるはずの子なのにだ。
(逢ってみたい。)
師に逢うたびに、そう志願してきたのにも関わらず、頑なに拒まれてきた。
だから、今日はやっと回ってきたチャンスなのだ。
少しでもいい人、かっこいい人にみられたいという欲望を持ちながらも、ディーノは持ち前の“ヘタレ”を、妹弟子の前で発動しそうで、不安があった。
でも、それよりも緊張で胸がいっぱいいっぱいだった。
それを見兼ねた師―――リボーンは、相変わらずの弟子に溜息を吐いていた。
そろそろ、あの子が帰ってくる。
まあ、いい。
少し黙っておこう。
コイツのヘタレっぷりを存分に堪能しようじゃないか。
師がニヒルな笑みを浮かべながら、そんなことを考えているなんて知る由もないディーノは、相変わらず一人で何かを考えていた。
「ちょ、ちょっとリボーン!
またあなたの仕業でしょう?」
「…!」
「えっと……リボーンのお客さん、ですか?」
いきなり開いた扉から、顔を覗かせたのは、ディーノが待ち焦がれていた―――沢田なまえ。
いきなり過ぎて、寛いでいる姿勢のままだったディーノは、驚きのあまり飛び上がりそうになった。
その様子にこてん、と首を傾げたなまえ。
リボーンは心臓が撃ち抜かれる音を聞いた。
誰のって―――もちろん、ディーノのである。
正直なところ、リボーンは自身の銃で本当にディーノの脳天を撃ち抜いてやりたいくらい、苛ついていたのだけど。
そんなこともつい知らず、ディーノは違うことを悟っていた。
(俺がリボーンでも、きっとなまえのことは内緒にするだろうなあ…)
話に聞いていたとおり、なまえは蜂蜜色の髪に、同じ色の瞳の普通の女の子だった。
しかし、何処か安心するような―――包容力がある気がした。
自分よりも遥かに年下なのに、だ。
それに、童顔なのか、少し幼く見えるその容姿は、将来の保証を物語っていた。
こりゃあ大物になるぞ、ディーノは確信した。
もちろん、二つの意味で、ある。
思わず、なまえを食い入るように見つめてしまったディーノは、はっと思い出し、姿勢を正した。
その様子を確認したリボーンは、ニヒルな笑みを浮かべながら、なまえに話し掛けた。
「こいつはキャバッローネファミリー、10代目ボス・ディーノだ
俺の教え子だから、なまえ、お前の兄弟子にあたるぞ」
「よ、よろしくな、なまえ」
「えっと、沢田なまえです
よろしくお願いします、ディーノ、さん……?」
また、こてん、と首を傾げたなまえに、ディーノは自分の頬が自然に垂れ下がっていくのを感じたが、防ぐことは出来なかった。
そう、もう自分を繕う余裕すら、ないのである。
「あの、お客さんに失礼なことは言いたくないんですけど……
日本では、土足厳禁なんです」
凛、とした声が耳を通って、ディーノの脳に響く。
その様子を見ていたリボーンは、眉間に皺を刻んだ。
(このお気楽野郎が。)
(ちったあ冷静さを身につけやがれ。)
そう、思いを込めて、リボーンは気が付いていないであろう、間抜けで成長しない弟子に冷たく言い放った。
「お前のことだぞ、ディーノ」
「え?!」
案の定、気が付いていないかったらしいディーノは、びっくりするあまりに飛び上がり、自身の革張りの椅子から転げ落ちた。
その様子を見兼ねて手を差し出したなまえは、格好を付けてそれを拒もうとしたディーノの脚がぶつかり、倒れてしまった。
「うわあ?!
わ、わりぃ!ごめんな、なまえ!」
「だ、大丈夫ですよ
それよりディーノさん、」
「ン?」
「鼻血が出てますよ、大丈夫ですか?」
えぇええェエエ?!と大袈裟なほど驚いたディーノは、また転びそうになる。
経験から学んだからなのか、そんなディーノからなまえはすかさず離れた。
二度も危険をおかしたくないのである。
その様子に、リボーンは一層笑みを浮かべた。
間抜けな弟子に対する哀れみと、冷静な弟子に対する成長の喜びからである。
それから立ち上がったなまえは、ティッシュを持ってくると、やっと落ち着いたディーノの前に座った。
これから起こることを予測出来たのか、リボーンは笑いを堪えるのに必死なようで、一方ディーノは首を傾げた。
「じっとしててくださいね」
まるで幼児を宥める母親のような優しい声で、なまえはディーノに声をかけると―――ディーノの顔を、鼻血をティッシュで拭いた。
ぽかんと、意識が飛んで行ってしまった様子のディーノには構わず、拭き終わったなまえは、今度はディーノの靴を脱がせた。
そう、なまえはディーノを動かさない方がいいと学んだからなのか、自分がやってあげることを選んだのだ。
それはもちろん、なまえの中にディーノがカッコいいイメージではなく、―――残念なイメージとして認識されたことを表していた。
ディーノの計画は、失敗に終わったのである。
転がり落ちた瞬間を覚えてるでも、なまえの優しい笑みを向けられるだけで、満足な兄貴ですが、何か?
ツナは基本人気者(*´ω`*)
原作をがんばって思い出しながら書いてみた!
お題:alkalismさまより
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