成代 | ナノ









※骸成り代わり・女主





気が付けば、窓から射し込む光が、橙色になっていた。嗚呼、居眠りしてしまったみたいだ。手元にはまだ沢山の書類と、起動したままでディスプレイだけが切れたパソコンが、わたしが触ったままの状態で鎮座している。彼らは自分の意志なんかでは動けないのだから、当たり前か。両手を組み、前に、後ろに、上にと動かして、すっかり固まった身体を無理矢理引っ張る。ん、ちょっと気持ちいい、かな。



「師匠ー、ババくさいですー」
「黙りなさい、フラン」



いつから居たのかなんて気にするとキリがない、神出鬼没な弟子―――フランは、頭の上の大きなカエルを触りながら、ソファーから顔だけわたしの方を振り返る。緑色で統一された髪と瞳の中には、何が映っているのかなんて、分からない。彼は不思議な、不思議すぎる人間だ。



「師匠ー、まだ終わらないんですかー」
「……見て分かるでしょう?」
「もーう、
今日稽古つけてくれる日じゃないですかー
なのになに寝ちゃってくれてんですか、馬鹿師匠ー」
「その口、今すぐ塞ぎますよ?」
「師匠の口でなら、本望ですー」
「そんなわけないでしょう?」
「ちぇっ」



全く、何を考えているんだか。一回り近く年上のわたしなんかに、興味すらないくせに。
まあ、確かに今日は前々から稽古をつけてあげる約束をしていたわけだから、わたしにも否があるかもしれない。でも、疲労で疲れた身体は正直なものだから仕方がない。


さあ、言い訳を考えるのは時間の無駄。さっさとやってしまいましょう。


左手にキーボード、右手に万年筆を握りしめ、黙々と机に向かっていると、視界の中の緑色が動く。なんでしょう、邪魔しないならいいんですが。



「師匠ー」
「………なんですか、」
「呼んだだけですー」
「‥‥刺しますよ?」
「いやだなあ、師匠ー
さすのは男の方で‥い゛ででっ、冗談ですってばー」
「あなたの場合は冗談に聞こえません
それに邪魔です、脳内ピンク」
「ミーは寂しいんですー」



「もーう、師匠つめたいですー」と、膝立ちで机の上に肘を突いてこちらを見てくるフランは、機嫌を損ねた幼い子どものようにも見える。はあ、本当に面倒ですね、君は。



「まったく…応援してるのか、貶してるのかどっちなんですか」
「そりゃあもちろん、ミーは師匠の味方ですよー?」
「じゃあ、黙ってなさい」



「はーい、分かりましたー」と、珍しく素直に返事をしたと思ったら、あれ、さっきよりも近いような。



「なに、してるんですか」
「なにって‥
ミーが師匠の椅子に座って、師匠を抱いてるだけですけどー?なにか問題でもー?」
「大有りですよ、クソガエル」



背後からがっちりホールドされたわたしの身体は、執務に問題はないくらい、腕は動くのだけど。なに、この恥ずかしい状態。弟子にからかわれてるとしか思えないんだけど。



「離れなさい、邪魔です」
「ええー?
だってーさっき師匠、黙れって言っただけで
触っちゃダメって言わなかったじゃないですかー」



確かにそうだけども。黙りなさい=邪魔をするなの意味が分からなかったのか、この子は。まあ、フランのことだから、分かっていてやってるのだろうけど。



「はあ、じゃあ離れなさい」
「嫌ですー」
「‥もう!フラン、いい加減にしなさい!」
「師匠は怒っても可愛いから大丈夫ですー」
「一体どの辺りが大丈夫なのか、まったく分からないけど?!」
「もーう、師匠ー
早くやっちゃってくださいよー」
「一体誰のせいだと…!」
「ミーの所為ですねー」
「分かってるなら、とっとと退きなさい!」



変なところで頑固なフランは、どうしても離れない様子。まったく、子どもなんだか、策士なんだか。



「はあ、じゃあおとなしくしていなさいよ?」
「! 了解ですー」



さあ、わたしの心臓は持つだろうか。















悟られぬ術を知ってる

心のときめきなんて、ウソに決まってる。


(結局、真夜中じゃないですかー)
(あなたが変なところを触ったりするからでしょう?!)
(師匠ー、意外とウブなんですねー
可愛いですー)
(殺意が抑えきれないんですが
……そうですね、今から稽古しますか)
(し、師匠絶対本気でやりますよね?!)
(当たり前でしょう?)
(ミーはベッドの上で本気になってほしいで……あだだだっ!間接が曲がっちゃいけない方に曲がりましたよ師匠ー?!)
(もうあなたなんて知りません)
(今の新婚夫婦みたいですねー(ニヤニヤ)
(いっぺんしになさい)












なんか楽しいな、この話。
フランはなんだかんだ言って、骸さんが大好きだと思う。

続きそうだなあ…。



お題:alkalismさまより


11_06_07







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