67 「あ、ファーストネームさん! しばらく見なかったから、心配してたんですよ!」 「…春奈か、」 朝練、放課後、とちょくちょくサッカー部に顔を出す日々が、 彼此2週間程経過した。 有人は、綱吉は財閥のトップだと思っている訳だから。 私が綱吉の分も護衛をしている、と話をしてあるから、必然と放課後は綱吉も一緒に居る。 まあ、表向きは財閥のトップっていう扱いだからな。 綱吉は、最初こそはおとなしくしていたものの、いつだったかの体育の授業で、持ち前の超人的な運動神経を発揮してしまい、今では円堂青年からの熱烈な勧誘を受けるまでになっていた。 マジどんまい。 ある日の放課後部活の時間に、私は背中から何かの衝撃を感じて振り返った。 そこに居たのは、春奈。 サッカー部のマネージャーの一人である。 確かにトレイズの事件のせいで何日か護衛を休んだことはあるが、 それは、もう二週間も前の話だ。 私からすれば、春奈の方が――――― 「春奈の方こそ、最近見なかったが……」 「! あ、ファーストネームさん、前の質問のことなんですけど…」 「質問?」 記憶を巡らせ、たどり着いたのは確か、私の年齢の話だったか。 「ファーストネームさんから直接答えを聞く前に、分かっちゃいましたね! お兄ちゃんと同じ学年なら、一個上ですか……!」 「ああ、そうだ」 「わたし、もっと上なんだと思ってました! あ、老けてるとかそんな意味じゃないですからね?! ファーストネームさん、大人っぽいから…!」 「そうか、ありがとう」 ―――――春奈の方が、姿を見なかった気がする。 そう、口を開こうとした私を遮るように話を始めた春奈。 どんどんと話がそらされている気がした。 違和感しか感じなかった。 「あれ? そういえばわたしって、ファーストネームさんにお兄ちゃんのこと…話しましたっけ?」 「…有人から聞いたんだ あまり女子とは話したがらない有人が、春奈とは普通にしゃべってるからな」 「なるほど!」 本当は自分で依頼主について調べた時に、既に知っていた。 それに、実際に目でも見て分かっていた。 「なあ春奈、なんで鞄なんて持ってるんだ? まだ部活の時間は始まったばかりだぞ?」 「あ、あの…実は今日、どうしても行かなきゃいけない用事があって…!」 春奈は、有人の大切な妹で。 「わたし、もう帰るんです」 サッカー部の話を自慢気にしてくれて。 「そうか、 話が長くなって悪かった」 底無しの明るい笑顔を持っていたはずだ。 「いえ! わたしの方こそ、ファーストネームさんと話せて嬉しかったです!」 お先に失礼します、と頭を下げて走っていった春奈。 その姿は、帰るというより逃げると表現した方がいいくらい必死さが感じられて。 ―――――春奈は、こんなに無理矢理作ったような、引きつった笑い方をするような子だっただろうか。 と、私の中に疑問が残ったある日の午後だった。 |