66 「……じゃあ次、…ファミリーネーム」 「…別に名前で構わないですよ? ファミリーネームは長いですから」 「そうか、じゃあファーストネーム」 「はい」 凄く言いにくそうに、私の名前を呼ぶ教師達を見ていて、何だか面白くなって笑みを浮かべてしまう。 その様子を見ていたらしい綱吉も、隣で笑いを堪えていた。 内心、発音超わりぃとか思っているんだろう。 窓際の一番後ろを陣取っている私と綱吉。 綱吉曰く、転校生の定番だそうだ。 「次の問14やってみろ」 傷一つ付いていない真新しい教科書に視線を移し、言われた通り問14の解答をした。 元々、育った環境が環境だったから、読み書きは嫌いだった。 仕事上、イタリア語から英語、日本語も話せるが、どうも耳から覚えたからなのか、私は文字の解釈が弱かった。 出来ない訳ではないが、時間がかかるのだ。 それから問題を解くわけだから―――――若干の間が空いてしまうのだが。 それが不自然なのではないかと気になっているのだけど 綱吉は私の事情から何やら分かっているから、若干のお世辞を言う。 「凄いね、ファーストネームくん! 転校してきたばっかりなのに、完璧だったよ!」 「そうか? 外国語だから、少し時間がかかってしまうんだが」 「え?そうなの? 全然気にならないくらい早いよ!」 「…ありがとう」 綱吉は窓側―――――つまり、私の左側にあたるのは女子生徒だった。 護衛だけの頃に、後ろで立っていることが多かったから、彼女とは面識があった。 確か、佐野美音(さのみおん)だったか。 彼女にも教師と同じ理由で名前呼びを許可したばかりだ。 彼女の一言で少し、心配事が無くなった気がした。 学生とは、なかなか難しく、そして単純なものだなと思った。 |