62 「ファーストネーム、今時間あるか…?」 「おお、有人 もう行く時間か?」 朝食を済ませ、自室で支度をしていた私が鞄を閉じたとき、遠慮がちにノックされた。 二つ返事で扉を開けると、同じく全て支度を済ませた有人が立っていた。 手ぶらなところから、荷物は既に積み込んだのだろう。 「綱吉のことだろう?」 「!」 「有人が明らかに警戒しているのは分かってるからな」 「あの人は何なんだ あんなに若くして財閥のトップなんだろう? それに、ファーストネームとの関係性もいまいちよくわからないし…」 「あはは、今日はよく喋るな、有人」 ―――――分からないことは多いけど、悪い奴じゃないさ。 「……」 「納得出来ないって、顔してるな」 「…………………いくら言っても、教えてくれないんだろう?」 「わかってるじゃないか、有人 悪いとは思うが、私と綱吉のことには深入りするな その方が、お前の身の為だ」 「……」 そんな会話を、朝、登校前に有人として、私はいつもより多い荷物を持って、車に乗り込んだ。 ちなみに、今日から私と綱吉も、有人と同じ高校に通う。 わざわざ普段通りに行くのは、有人を驚かす為である。 悪趣味だって? なにを今更、それが私だ。 綱吉は(文句を言っていたが)先に徒歩で出掛けていて、私は後から合流する予定だ。 |