13 ヤツは部屋に戻り、服を着てきた。 グレーのロングパンツに、青のシャツ。 今度は白のネクタイで、黒のベストと帽子は手に持っている。 「…私に何か、ついてるか?」 主人の帰りに、嬉しそうに尻尾を振るリュカを抱き上げて撫でる。 そんなヤツを、いつのまにかじーっと見ていた。 「いや、…別に」 変な青年、と呟かれた。 「…だからな、やめろと言っただろう」 「………あぁ、“青年”? じゃあ、なんて呼べばいいんだ」 リュカを膝に置き、タオルでわしゃわしゃと金色の髪をふく。 時折滴がリュカにかかり、悪い悪い、と軽く謝っている。 「…」 「…」 だからといって、特に呼ばれ方にこだわりはない。 「……」 「……、」 「………」 「……………よし、分かった」 沈黙が耐えられないのか、先に破ったのはヤツ。 「名前、何だっけ」 「…ふざけてるのか」 「嘘だよ、“有人”」 私のこともファーストネームと呼べ、 「……………あぁ、分かった」 不思議と名前で呼ばれるのが、心地好かったりする。 今までは、“鬼道様”とか、“坊っちゃん”とかだったし。 「改めて、有人 私に任せておけ、必ず護ってみせる」 何処からその自信が出てくるのか。 真剣な表情、なんとなく嘘に思えなかった。 |