▲ 1−8
――一人で居ないと、ペンキ仮面は狙ってこないみたいだから。
部室で、そうニックネームが説明すると、特にヒメコは納得がいかない顔をしていたが、おとなしく皆帰宅した。
しかしこれは、作戦のうちであって、一回解散した後にメールを入れて、本当は二人とも学校にまだいる。
ニックネームが一人になったフリをするためだ。
はあ、読みが当たるといいんだけど。
部室に一人残されたニックネームのケータイに、スイッチからメールが入る。
[ロッカーを開けてみて(・∀・)b]
ニックネームは言われた通りに、ロッカーを開けてみると、ニックネーム用と貼り紙の書かれた段ボールがあった。
これかな?ニックネームが首を傾げると、すぐさま[それだ!]と返信が入る。
スイッチ、指示通りに動いてよ。
なんでまだ部室の傍にいるの。
ニックネームの数少ない陣地である長椅子に腰掛け、段ボールを開けてみる。
中身は―――開盟学園の男子用の制服だった。
部活勧誘の時と同様、サイズはピッタリ。
上は半袖シャツで黒いアンダーシャツまであり、ズボンは何故かハーフパンツになっていた。
[念には念を、ダヨ(^皿^)]
ああ、これならもしペンキを被っても、大丈夫ってことか。
良かった良かった。
ニックネームが一人、囮になると告げると、中々納得してくれなかったヒメコも、これなら納得してくれるだろう。
ニックネームはスイッチの優しさを噛み締めた。
まあ、なんでサイズを知ってるのかとか、なんでこんなものを用意してあったのかとか、もう気にしない。
優しくて、用意周到だってことにしておこう。
夕暮れ、倉庫の前に佇む一人の男子生徒―――否、男子用の制服を着た女子生徒。
背後から必死に息を殺して忍びよる影は、その姿に一瞬身構えるも、赤いツノ帽子とゴーグルが見えると、安心したかのように肩を撫で下ろした。
頭の中に浮かぶ会話。
(一人で大丈夫なん?ニックネーム)
(うん、任しといて)
早く鳴り響く心臓は、一向におさまらないが、思い切って走りだした。
その時、少し女子生徒が振り返った。
『なんてね』
―――ガサッ
影の背後で、影が動く。
ヒメコ「動くな」
ピタリ!!!
素早く回り込んだヒメコに、影は動きを封じられた。
くそ、なんで。
なんで、一人じゃないんだ。
『いいよ、ヒメコ』
ヒメコ「動いたら顔の皮を剥ぐ」
『ええ怖いよっ!! 剥ぐなら仮面でしょ!!』
影は抵抗する。
だから、なんでなんだ。
『本当の作戦は、後でメールしたの 観念しなさい、ペンキ仮面』
影の心臓は、激しく鳴り響く。
夕暮れに照らされる、男子の制服を纏った女子生徒―――ニックネームの瞳は、真っ直ぐに影を映す。
『ううん、もう分かってるんだよ―――転校生』
ヒメコによって奪われた仮面のしたから、現れ出たのは。
杉原「ち…違いますよ!! 何言ってるんですか!!」
焦りなのか、妙に取り乱した―――杉原だった。
杉原「ボ…ボクは ただ様子を見に…」
『ペンキを持って?』
杉原「!!!」
『ねえ杉原くん、本当は自分でペンキを被ったんじゃないの? 違う?』
暫く杉原は、沈黙を貫いた。
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