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今のところ、容疑者の可能性があるのは城ヶ崎ただ一人。
直ぐにでも洗い浚い吐かせたいらしいヒメコを宥めるように、ニックネームは指示を出した。
下手に問いただしても、証拠が無ければ逆効果。
ならば証拠を掴めばいい。
リーダーであるニックネームの指示通り、メンバーに入れられていた杉原込みで、ヒメコとニックネームは尾行を始めた。
ニックネームの読みが当たり、裏庭に現れた城ヶ崎を見つけたのはいいものの、ヒメコは溜まっていたそれを吐き出したくて堪らなかった。
我慢すること二十秒。
短いとか、そんなわけない。
短気でツッコミ体質なヒメコにとっては、頑張った方である。
ヒメコ「何で尾行の変装がアフロやねん!! 目立ってしゃーないわ! あんたふざけとんのやろ!!」
『だからって背後から殴るの?!!! ねえっ何でこーゆー事平気でできるの!? 考えよ? こんなんで死ぬ事だってあるんだよ?』
ヒメコ「ほな死んだらええねん! 悪ふざけの末死んだらええねん」
今日のヒメコ、ツッコミにキレがありすぎるというか、手厳しいというか。
ニックネームはスイッチから尾行に最適だと教わって、身につけていたアフロを渋々外した。
またスイッチからいらん入れ知恵されよって…。
ヒメコは不機嫌丸出しである。
いつもは空気の読めないニックネームだったが、今回はいつもと違うヒメコの様子に気がついたようだった。
そんなことをしている内に
『あ、ヒメコ、見失っちゃった!! じゃあ、そっち捜して!』
ヒメコ「おう!」
城ヶ崎を見失ったニックネームとヒメコは、咄嗟に辺りを見渡す。
何か音がしたような気がして、ヒメコは頭上を振り返る。
するとそこには、今まさにペンキを持ち、仮面を被った怪しげな人物が、ニックネームに向かってペンキをかけようとしていた。
(まずい…!!)
ヒメコ「危ないニックネーム!!!」
もうそれは条件反射だった。
ヒメコは自身の手に馴染んでいるホッケー用のスティック―――通称サイクロンを握りしめ、強く奮った。
それはもちろん、ニックネームに向かってである。
別に殴った訳ではない。
器用にも、ニックネームのブラウスの襟にサイクロンを引っ掛けて、引っ張ったのである。
もちろん、遠心力とかそのた諸々が加わって、ニックネームの首は大変なことになったのだったが。
『げほげほっ』
ヒメコ「だ、大丈夫かニックネーム?!! 強く引っ張りすぎたかもしれんわ…」
『わ、わたしは大丈夫だから…ヒメコ、早く追って‥!』
ヒメコ「わ、わかった…どこや!!! 逃がさへんで!!!」
走りだしたヒメコを視線で追いながら、ニックネームは座り込み、喉をさすった。
自分を守ってくれたヒメコには悪いが、大分喉をやられたようだった。
引っ張られた衝撃で、尻も痛い。
でも、こんなところで立ち止まってなどいられない。
早く、早くヒメコを追いかけなければ。
ニックネームが立ち上がろうと地面に手をつき、力を入れたときだった。
―――ッ‥……ぁ‥‥!
『ヒメコ…?』
慌ててニックネームがヒメコに追い付くと、ヒメコは指をポキポキと、いやバキバキと鳴らしながら、一人の男子生徒に近づいていた。
舌打ちをしたヒメコ。
その後、コンマ一秒も経たないうちに、断末魔の叫び声が響き渡った。
『あ、この人…小坂さん、だっけ』
ヒメコが城ヶ崎を追って走りだした先に出くわした小坂は、どうやらヒメコの邪魔をしたよう。
とばっちりのような感じもするが、仕方ないだろう。
一刻を争う事態なのだから。
小坂の呼吸が落ち着いた頃、ニックネームは気が付いた。
『小坂さん、あれからずっとここに居たんですか?』
小坂「うん あの後(キミ達のせいで)ユミちゃんにフラれてね」
『いや…』
ヒメコ「アレはスイッチが…」
―――それからずっと池に映る自分の姿を眺めていたんだよ 水の中で恋に溺れたボクの姿をね…… そして悟ったのさ 逃がした魚は大きかったと かつてのこの池の様に 鯉(恋)を失ったんだ…………とね
ヒメコ「お前いちいちウマイこと言おうとせんでええねん!!」
小坂の臭いセリフにヒメコのツッコミが入る。
普段ならニックネームもツッコミを入れているはずだ。
それを不思議に思ったヒメコが振り返ると、ニックネームは真剣な表情で何かを考えていた。
そしてぽつりと、呟いた。
『何で狙われなかったんだろ』
ヒメコ「あん?」
『何で小坂さんは標的にならなかったのかな?』
同じ場所にずっと居て、ニックネームとヒメコのように動き回ってもいない。
標的にするなら、ニックネーム達よりも小坂の方がずっといいはず。
どうして?
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