▲ 番外編1
夕暮れにさしかかってきた時、太陽はスケット団の部室にも影を作り始めていた。 下校時刻までは余裕がある。
だけど、依頼がないからする事がない。
まあ、普段と何も変わらない放課後であった。
スイッチはヘッドホンをしてパソコンに向かっており、ヒメコは愛用のスティックを丁寧に磨いている。
ニックネームはと言うと、これはまた珍しく読書中だった。
活字も好きだが、友達と交換したり話題に上がるのはほとんど漫画なので、最近は専ら漫画ばかり読んでいた。
そんなニックネームが何故活字に触れようとしたのか―――――それは妹の瑠海が関係している。
―――――今、瑠海のクラスで流行ってるヤツなの!
と、ご機嫌に手渡されれば、断ることなんて出来るはずもなく。
読んでみて!と言われたので、ニックネームは今日一日の全ての休み時間を読書に費やしているのである。
手渡された本は、所謂ケータイ小説というヤツで、ニックネームと同じ高校生の女の子が主人公だ。
対人関係や家庭問題、恋愛等、どこにでも普通にある日常生活が舞台になっていて、親しみやすい内容だった。
ニックネームが読む本がクライマックスにさしかかってきた頃、パソコンに飽きたのか、スイッチはヘッドホンを外した。
辺りを見渡せば、神経な表情で本に向かっているニックネームと、ご機嫌にスティックを手入れしているヒメコがいた。
ヒメコにちょっかいを出すと、下手したら三倍以上になって返してきそうなので、ニックネームの方にしよう。
と、簡単な理由で立ち上がろうとしていたスイッチは、突然顔を上げたニックネームにびっくりして肩をぴくりと揺らした。
ヒメコもちょうど手入れも終わったようで、満足気にスティックを壁に掛けた。
む、作戦実行失敗。
『うーん、よく分かんないなあ…』
ヒメコ「どうしたん?ニックネーム さっきから妙に真剣な顔しとったけど」
『あのね、これ読んでたの』
ニックネームに手渡された本を見たヒメコは、これ今大ヒットしとるヤツやんと零した。
ああ、瑠海もそんなこと言ってたなあ。
『ラストがね、 …………あ、ラスト言っちゃってもいい?』
ヒメコ「アタシは別にかまわへんで」
『あ、うん ラストね、主人公はハッピーエンドなんだけど、親友が凄く可哀相なの』
ヒメコ「……………ああ、なるほどなあ」
『主人公の為に、自分の気持ちに嘘をつくっていうか…』
―――――一度好きになった人を、そう簡単に諦められるのかなあ?
ニックネームが読んでいた本のラストは、主人公のために、恋敵でもあった親友が想いを諦め、最終的には主人公の恋を応援するというものだった。
ヒメコは驚いた。
あの、周りとか色恋に疎いニックネームが、恋愛について語るなんて。
も、もしかしてニックネーム、好きな人おるんか?
あかん、あかんで!
ヒメコの脳内で勝手に膨らんでいく妄想にも近い何かは、ニックネームには届かない。
もうお約束である。
ヒメコ「その親友は、恋より友達をとったってことやな」
『うん………そういうのも、カッコいいとは思うけどね、』
でも、やっぱり、うーん……
一人また考え始めたニックネーム。
そんなとき、徐にスイッチが立ち上がった。
[なんだなんだ、オイラも仲間にいれてくれよ!]
ヒメコ「なんやねんアンタ!寂しがり屋か!」
『ごめんスイッチ、忘れてた…』
[w(°O°)w]
ヒメコ「顔文字でやらんでええねん!余計分かり辛いっちゅーねん!」
さっきまでの静かな雰囲気は何処へやら。
一瞬の内に騒がしくなる。
イッツ、スケットダンズ、マジック!
女子トークに入ってくんな、とスイッチに対して動物を追い払う時のように、シッシッと手を振ったヒメコ。
それに傷ついたーと棒読みで返すスイッチ。
いつもなら、わたしもー!とニックネームが被せてくるのだけど、ニックネームはまだ考えているようで。
つまらない、とスイッチとヒメコは二人で口を尖らせた。
ヒメコ「アタシは今は恋愛なんて興味ないけど ニックネームに彼氏が出来るのは嫌やなぁ」
[何処の馬の骨だか分からんようなヤツに、娘はやらん!]
『話の繋がりが見当たらないんだけど?! え?二人してボケてるの?』
ヒメコ「ボケとらんちゅーねん!! アタシは真剣に話しとんねんで?!!」
ヒメコの脳内で考えていた話題が、ついに漏れだした。
女子同士で恋バナをしたいのは当たり前だが、何だかニックネームとだけはしたくない。
ニックネームはアタシらのもんや!
ヒメコ?ホントにどうしたのー?
見事に会話が噛み合わない。
『わたしに彼氏? で、出来るわけないから』
ヒメコ「アンタ無自覚かいな! なんとなくは予想しとったけども!!」
[この、歩くフラグ立て機が!!]
『………ごめん、意味が全くわからない』
なんか今日、みんな変だなあ。
ニックネームが首を傾げていると、部室のドアが開いた。
ん?依頼?
振蔵「失礼つかまつるでござる」
『あれ、振蔵くん』
振蔵「ヒメコ殿、スイッチ殿、加勢に参ったでござるよ!」
『なんの?!! え、ていうかわたしだけのけ者ー?!』
[さすがスイッチのコーナー!]
『唐突だなあオイ! もう!なんか今日みんな自由すぎるよ?!』
ニックネームがわたしもボケたいのにとすね始める五秒前。
何処から取り出したのか、ホワイトボードを引いたスイッチが、畳に座るニックネームの目の前にやって来た。
なになに、題目は…
『男はみんな狼なんだぜ…?』
[鈍感、世話焼き、純粋、童顔 二次元ではヒロインの王道とも言われる設定をすべて兼ね備えているニックネームは、理解するべきだ!]
『え………?』
ヒメコ「あー!もうかわいいなぁ! 何も分かってない感じがかわいてしゃあないけども!! ここはスイッチの言う通りやねん!!分かったか?」
残念ながら、ニックネームはさっぱり分からないと首を傾げた。
そーいうのも、無意識にやるからあかんねん!
え、そーいうのって…どういうの…?
ヒメコ「せやな、た、例えば」
―――――夜道、一人で帰っていました。 辺りは真っ暗。 少し肌寒くなってきて、余計に不安が募ります。 そんな時
[HEY!HEY!HEY!そこの彼女ー、送ってってあげるから、ちょっと話さない?]
『え、いいんですか…?!』
ヒメコ「はいストップー!」
振蔵「ニックネーム殿、知らない輩に簡単についていってはダメでござるよ」
『え?でも、優しい人だよ??』
ヒメコ「小学校で習ったやろ?! 知らない人についていきませんって! すぐに信用しちゃあかんねん! もしそいつが誘拐犯やったらどないすんねん!」
『………わたし、誘拐されるほど可愛くないけど』
ヒメコ「次や次!」
鈍感な意見はこの際スルーや!
なかったことにされたー?!!
―――――帰り、下駄箱を開けると手紙を発見! えっと、あ、わたし宛てだ! 内容は、放課後体育館裏にて待つ…? 差出人はない。 行く?
『え?もしかして果たし状?! この平成の時代に?!!』
ヒメコ「って、なわけあるか!!」
『で、でも振蔵くんみたいに、マニアみたいな人もいるわけだし…… うーん、どうしよう、わたし恨まれてるのかな… こ、ここは、行って和解するべき、かなあ……?』
振蔵「拙者はまにあ等と同じにしないで欲しいでござる!! 拙者はそんな生半可な志ではないのでござるよ!!」
ヒメコ「あー、ツッコみたい! ごっつツッコみたいけど、全然聞いてくれへん!」
[ニックネームが気付いてないなら、ここは教えない方がいいぞ]
ヒメコ「あ、そうやな……」
『で、でも体育館裏って、かなり人来ないよね… ボコボコにされて、誰にも気付かれずに……』
振蔵「ニックネーム殿!戻ってくるでござるよ!!」
振蔵にぐわんぐわんと揺さ振られて、はっと戻って来たニックネーム。
きょとんとして黙っているニックネームに、ヒメコとスイッチは顔を見合わせた。
はあ、ニックネーム自体を変えるより、やっぱり自分たちがなんとかするしかないか。
きみだけの星眼鏡
結局スイッチ達は何がしたかったんだろうと、ニックネームが首を傾げていると
(王子!わたしという人がいながら、どういうことなの?!! まさか、あの人を選ぶだなんて、言わないわよね…?!! ねえ、なんとか言ってよ王子!!) (ロマン、ちょっと落ち着こうな!) ((なんかややこしくなってきた…?!))
なんだかよく分からない出来で…すみません お待たせしてしまいました、ダメ文ですが宜しかったら貰ってやってください…!
助団連載、早くも反響いただきまして、すごく嬉しいです! まだ連載がぜんぜん進んでないので、あんまりいろんなキャラを出すとネタバレになるかと思いまして、 振蔵とロマンだけにしました!すみません。 ニックネームは女の子ですが、ロマンは変わらず王子と呼びます! 気になる展開は、連載を待て!なんつって☆
調子こきました。 だって、リクエストを頂いてから嬉しすぎてずっと舞い上がっていたんだもの! こんなんで本当にすみませんでした… よろしければこれからもNero e biancoと時松杏をご贔屓にお願いします。
前サイトの3周年企画:優姫さまのみフリーでした。
お題:alkalismさまより
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