『うん、かわいい
よく似合ってるじゃない』
あたしの肩をついた母さんは、人一倍ファッションに敏感な人だから、お世辞とか関係なく、悪くはないようだ。
『ありがとう!
でも……せっかくの休みだったのに、本当によかったの?』
『かわいい娘が遊びに行くのは心配だけど、わたしは邪魔するような人間じゃあないわよ』
そういう意味じゃなくて。
自然と嫌そうな顔になってしまったあたしを見て、冗談だと母さんは笑った。
『なまえと出掛けるのはいつだって出来るでしょう?
だからほら、せっかく出来た新しい友達との約束、大事にしなさい』
お母さんが休みをとれるのも珍しいのに、ちょうどその日は―――――秋ちゃんと出掛ける予定の今日だったのだから、残念だった。
小さい頃は、次の休みには何処に連れてってもらおうかと考えるのも楽しみだったくらい。
それなのに、母さんは一緒に着ていく服を悩んでくれた。
本当、優しいんだから。
『ま、わたしは兄さんのご飯でもゆっくり満喫してるわよ』
母さんは楽しみだわ、と本当に楽しそうに笑うものだから。
あたしもつられて笑った。
ここは、素直に優しさに甘えておくべきなんだろうな。
『じゃあ、行ってきます』
秋ちゃんと待ち合わせたのは、近所の公園だった。
確か、電話の内容だともう部活は終わってるはず。
『あれ、まだ終わってないのかな』
『……ん?…みょうじか』
『…あ、えっと………篠田くん』
『正解-ビンゴ-!』
黒縁のメガネをくいっと触った彼は、軽音部のボーカル担当の篠田隼太くん。
見た目にはあんまりこだわらないタイプなのか、ジーンズにフード付きのパーカーで、随分履き尽くしたスニーカーが忙しそうに音をたてていた。
ケント曰く、彼はただの音楽バカらしい。
ちょうど今も、大事そうに抱えていた。
大量の楽譜を。
『早くやるに越したことはないからな
文化祭にやる曲を考えてたんだ』
『それにしても、……その量は……?』
『これは知り合いから貰ったんだ
もう使わないらしくて、引き取り手に困ってたからな』
『そうなんだ……』
『この中から決まれば低予算でいいと思うけど
まあ、ダメでも練習用にはなるだろうしな』
なんか、凄いなあ。
何がって、篠田くんのやる気が。
入部届けを出した訳ではないけれど、あたしはもう頭数に入れられていたようで。
月曜日にみんなで話し合うぞと言われた。
見えてきた前奏
(結局秋ちゃんが来るまで、あたしと篠田くんは話し続けた)
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