一徹 | ナノ










  変わりそうな立場


※高三の秋

暑い日と寒い日を何度か繰り返す、不安定な日が続いていた。
確かに夏は終わりを告げていたが、秋の台風というやつが来たりしていたため、雨上がりの今日は余計に暑い気がした。

「たぶん、今日は傘いらないよね、……たぶん、」
「はよ、及川
行かねーのか?」
「あ、はじめちゃん、おはよう
ちょ、ちょっと待って…」
「おう…?」

よし、と何の決意だか知らないが、なまえは傘を握りしめていた右手をそのまま玄関の中の傘立てに動かして、しまった。
雨にうたれるのは小さい頃から嫌いだ。
ベタつく髪も服も、なんだか下に下がってしまいがちになる気持ちも、たまに鞄や靴の中まで濡れてしまって、帰ってから教科書やら制服をなんとかしなければと思うことさえも。
でも、なんでだろう。
はじめちゃんを見てたら、なんとかなる気がした。

「ふふ、変なの…」
「おーいどうかしたか?」
「なんでもない
大丈夫だよ、行こうか」

待ってくれてありがとね、と玄関の扉を閉めるついでではなくて、きちんと顔を向き合わせてからお礼を言う。

「…なんか機嫌いいな」
「うん、そうなの
…内緒だけどね」
「そんな気になる言い方すんなよ」

まあ、無理には聞かねーけど、と岩泉は照れているのか、なまえと違って前を向いたまま呟くように言って、歩き出した。
夏の暑い頃とは違い、朝と夜は冷え込むようになってきたこの頃、岩泉はブレザーのポケットに手を突っ込んでいることが多くなっていた。
そのためか自然と身体は前かがみになっていて、岩泉の少し後ろを並んで歩いているなまえは、いつもより余計に顔が見にくくなるから嫌だなあ、と思っていた。
もう少ししたらマフラーや手袋が必要になって、さらにはじめちゃんとの壁が出来てしまう。
ひっつき虫のつもりはないが、出来ればストレートに彼自身を見たいのだ。

「はじめちゃん、今年はまだマフラーとかしないの?」
「…まだ早くねえか?
さみーとは思うけどよ…
あ、お前こそどうなんだよ、」

去年風邪ひくの多かったから、早めに対策出来ることはしとけよ、及川は自分のこととなると抜けてんだから。

「そ、それはだって選手と比べたらマネージャーなんてそんな心配されるほどじゃ…」
「選手もマネージャーも人間だ、ボケ」

お前が俺らの心配するみてえに、俺たちもお前の心配するんだからな、言うことは素直に聞いとけ。

いつものようになまえの頭を優しく撫でるのではなく、クシャクシャと掻き回した岩泉はきっと照れているのだろうが、少し下を向かされていたなまえには確認できなかった。
やっぱりはじめちゃんは優しいし頼れる。
ふふ、とまた笑みがこぼれたなまえに岩泉はさらに手を掻き回した。

「あれ、珍しいな
岩泉がなまえいじめてる、顔真っ赤にしながら」
「おー、なまえちゃんかわいそうだネ
あのパワーゴリラ、にやけててこわーい」
「…松川、花巻、ちょっと待てや」
「やっべえ聞こえてたみたいたぜマッキー」
「なに言ってんだよ松川、岩泉、
俺たち別に何も言ってねーよ?」

なー、なまえ?
あれ、なんか巻き込まれてる気がするけど、よく状況が分かっていないなまえは笑みを浮かべたまま首を傾げたが、口から出たのはやっぱり

「おはよう、まっつん、マッキー」

今日も会えて嬉しい、と全力で顔に出ていて、さらに駆け寄って来るのだから敵わない。
あー、今日もかわいい。
なんなのこの子、天使か。
あ、やべ、番犬居たの忘れてた。


わたしを動かすのはいつも彼で、彼らを振り回すのはいつもわたし、らしい。








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