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・落乱



「あ、なまえちゃんなまえちゃん!」

廊下からちょっとこっちきてー!と手招きされ、断る理由もないのでそれに従い、なまえは席を立った。
いつも一緒にいる友達は生憎図書当番でいないため、違うクラスの友達と昼食をとっていたのだが、どうしてここが分かったのかというツッコミは友達がしてくれたが―――――どのクラスにいても周りの反応は全く同じで。
学年公認の仲(決して付き合っているとかそんな浮わついた話ではなく、姉弟のような関係だと認知されているらしい)だということで注目されるのが少し気恥ずかしくて、少し早足で廊下に出たなまえはそのまま腕を捕まれ、引っ張られながら廊下を進んだ。
あれ?どこ行くの?
わたし、まだお昼ご飯食べ終わってないんだけど。
そう思っているなまえの思い届かず。
喜三太はぐいぐい廊下と階段を進み、開けた場所に出たかと思えばそこは屋上だった。

「おまたせー!
なまえちゃん連れてきたよ!」
「は?!」
「喜三太、マジで連れてきたの…?」

「うん?
どういう状況…?」

先程までは引かれていた腕に、今はご機嫌にくっついている喜三太に尋ねたが、ただただ嬉しそうに笑っているだけで話が進まない。
それをみかねた庄左エ門がこっちにおいでよと助け船を出してくれたので、なまえはおとなしく従ったが―――――何故、見られているのだろう。

「ねえ、きーちゃん
いい加減に理由話してくれないかな…?」

「おー!
俺、生“きーちゃん”はじめて聞いたわー!」
「喜三太と幼馴染みって本当だったんだな!」
「…?」

ちょっと、状況が分からないんですが、と若干ひきつった顔で喜三太に尋ねたなまえの発言に食い付く男子、若干二名。
彼らは加藤団蔵と佐武虎若―――――去年、喜三太と金吾と同じクラスだった人だ。
ん?そういえば、今ここにいるメンバーは皆元一年三組で、さらに喜三太達を含めたよく“目立つ”分類だと言われていたメンバーだ。
いや、むしろそのメンバーしかいない。

「もしかしてわたし、お邪魔…?」
「大丈夫だよみょうじさん
今日はたまたま元三組で集まってただけだから」

またしてもフォローを出してくれたのは庄左エ門―――――彼、黒木庄左エ門は不動の学年主席と呼ばれている人だ。
あれ、ますますわたしがここにいる意味が分からない。
そんななまえに影が出来た。
顔を上げればそれは金吾によるもので、やっと答えをくれるのかと思いきや、彼の視線は喜三太の方を向いている。

「…喜三太、お前まさか説明なしに引っ張ってきたわけじゃないよな」
「えー?なんで分かったの金吾?!」
「はあ、
ちょっとは考えろよ
手ぶらで連れてきたって、予定が分かるわけないだろ
みょうじは手帳派なんだから」
「そういえばそうだったね!うっかりしてたー」

「ちょっと、金吾までスルーとか…!
わたしガチで帰っていい?」

「みょうじさん苦労人だねー…」
「おい、どっちかいい加減に説明してやれよ
話進まねえだろー」

猪名寺乱太郎と摂津のきり丸が同情を含んだ声を漏らす。
それに少し居たたまれなくなり、なまえは強く喜三太のシャツを引っ張った。
マジでいい加減にしろ、と目線は金吾に訴えていた。

「いい加減にしてくれない?
わたしまだお弁当も残ってるんだけど」
「あ、ごめんね…?
実はさあ―――――」

―――――次の三連休にね、このメンバーで泊まり掛けで遊んでこようと思ってるんだけど、
僕、その日何か予定あったっけ?

喜三太となまえとの間柄を知らない第三者からすれば、喜三太のこの質問は意味が分からないだろう。
しかし、なまえは慣れた様子で、ちょっと待ってと喜三太に言い、携帯電話を操作しだした。
やがて耳元に持っていき、何か話し出したのを見て、喜三太はおとなしく待っていた。

実はこの光景、

「…ん、ありがとー
きーちゃんはおばあちゃん家、金吾は…部長さん家に行くんじゃないの?」
「あ、そうだった!」
「え、俺も…?
…あ、稽古つけてもらう予定あった」

「おーい、これどんな状況だよ?」
「おそらく、みょうじさんが二人のスケジュール管理をしてるみたいだね
喜三太はその日その日の気分で動いてるから、約束をメモするほどまめじゃないし
金吾は部活と家の用事が多いから、覚えきれてないんだよ
ほら、脳みそまで筋肉だから
きっとそれを知ってるから、みょうじさんが二人のスケジュールを管理するようになっていて、二人もそれに頼りきってるってとこかな」
『庄ちゃんたら、冷静ね』

「…黒木くんすごいね、全くその通りです」

「え、なにその特殊すぎる関係」
「やっぱみょうじ、苦労してんなー」
「まあ、喜三太と金吾だしな」
「おい!」
「ねえ団蔵、それってどういう意味ー?」
「…みょうじがすげえってことだな!」
「へへ、そうでしょー
なまえちゃんはあげないからね」
「(うまく丸め込まれてるよきーちゃん…)
ん、きーちゃん抱きつきすぎ」
「えー
いつものことなんだから、いいじゃん
けちー」

携帯電話でクラスメイトに電話し、スケジュール帳を見てもらっていたなまえは、自分達を不思議そうに見ていた元三組の面々を振り返った。

何を隠そう、少し抜けているところがあるこの二人。
幼馴染という間柄から、必然となまえが面倒を見てきているわけで―――――最終的な決定は、なまえがいないと決められないほどに依存されてしまっているのである。

「こら、そんなこと言うのはこの口か、」
「いひゃいいひゃい!
ごめんなさいぃ!」
「うるさい
どっちもいい加減にしろ」
「はにゃあ…」
「…金吾に怒られるなんて、」
「なんかいった?」
「ごめんなさーい」

「と、いうわけなので
僕と金吾はダメでしたー」
「そう、残念だね」

―――――ガタンッ!

「なまえ!
あ、…」
「みょうじさん、ありがとう
急に連れ出しちゃってごめんね、もう大丈夫だよ」
「あ、そう?
じゃあ…」

タイミングよくなまえを呼びに来たクラスメイト1、2、3…?
多くないか?
なまえは未だ甘えてくる喜三太の腕をやんわりと離して立ち上がった。

「あ、なまえちゃん!
今日の晩御飯は…?」
「今日は金吾の家でしょ
おばさんが休みの日だから」
「あ、そっか
ありがとー」
「ん、じゃあね
…お邪魔しました」

「もうなんか突っ込むのも面倒だね」
「ああ、俺、あきらめた」





仲がよすぎるのも問題です!

(ちょっとなまえ!
あの幼馴染二人はおいといて、なんで元三組メンバーとも仲良くなってんのよ!)
(え、むしろわたしが聞きたいよ
それにそんなにしゃべってないし…)
(でもずるい!)
(なまえのくせに!)
(!…なんかごめんなさい)