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  クライマックスはいつか話します








見慣れた通学路をいつもよりも少しだけゆっくりとしたペースで歩くと、普段は気にも止めないのに、今日はやたらといろんなことが気になって。

空が青いとか、商店街から香るいい匂いとか。

まだ昼にもなっていないからなのか、住宅街は少しだけ静かだけど。

卒業式特有の悲しい雰囲気が嫌で、泣くのを我慢していたわけではないけど、わたしは足早に学校を後にした。



「なまえ!」
「…りょう、」



声を掛けられた方へ振り向くと、そこには走ってきたのか、少しだけ肩を弾ませている幼馴染の笹川了平が居た。

さすが運動部。

全然疲れた様子もなく、いつも通りの表情で、少しだけ嬉しそうにも見えた。

そういえば、クラスの打ち上げはみんなの受験が終わった後にするから、後日になって。

だから今日は、わたしの家とりょうの家で一緒にご飯食べに行く話になったから、一緒に帰って来いって言われてたんだっけ。

やばいやばい、忘れてた。



「どうしたのだ?みんな、まだ写真撮ったりしてるぞ?」
「うん、…何か、湿っぽい雰囲気、ダメなの」
「それは俺も同じだな!」



豪快に笑って、いつも通りわたしと肩を並べて歩き始めたりょう。

わたしは歩きながら、卒業生の付けるリボンを胸元から外した。

その時、不意に気になって。

わたしは隣を歩くりょうの方を振り返った。



「りょう、」
「ん?どうしたのだ?」
「…やっぱりブレザーだから、第二ボタンとか関係ないよね」



いつも通り、りょうのブレザーに付いているボタンを確認すると、わたしは何故か安心したかのようにほっとしていた。

ちょっとズレているところもあるけど、普通にこいつはかっこいいから。

第二ボタンくらい無くなっているかと思ったけど、そうでもないみたいだ。

あ、でも何気持田くんとか無かったよな。

「そうだなあ、なまえになら第一ボタンあげてもいいぞ」とか、無駄に一のところを強調して言ってきたのには本気でムカついたけど。

りょうの妹のきょうちゃん誑かすようなアンタになんか、興味ないっての。



「ああ、卒業式だからか?」
「うん
あーあ、わたし結構この制服気に入ってたんだけどなあ…」
「そうだな、京子もかわいいとよく言っていたぞ」
「(制服が、だよね)」



クリーム色のブレザーに、ちょっと普通だけど赤のリボン。

名前の通り普通の学校だから、それが合っているといえば合っていて。

まあ、何だっけ。

きょうちゃんの友達の…沢田ツナ、かなんかが、最近はよく問題を起こしていて、風紀委員長に怒られたりして騒がしいけど。

そういえば風紀委員長って、何年なんだろう。

同級生では無かった気がするし。



「なまえ?」
「うん?………ああ、ごめん
ちょっといろいろ思い出してた」
「そうか!元気が無いように見えたのでな!」



元気、ないか。

わたしは元々、喜怒哀楽が激しいというか、顔に出やすいタイプではないから、友達でさえ「アンタはよくわかんない」と言われてしまうこともあるくらい、あまり顔には出ない。

それなのに。

ていうか、自分でも…そんなこと分かってなかったのに。

そうか、元気ないんだわたし。

やっぱり寂しいのかなあ。



「ホント、りょうには適わないなあ」
「どうしてだ?」
「だって、りょうって結構人のこと見てるじゃない」



昔からりょうにだけは嘘つけなかったし。

そう声に出すと、りょうはよく分からないとでも言いたそうな顔をした。



「………ら、…」
「え?
なんていった?」



「なまえだから、分かるんだ」



不意に立ち止まったりょうは、真っ直ぐにその瞳にわたしだけを映していて。

反らすにも反らせない雰囲気に、わたしは正直戸惑っていた。

え、何。

りょうがこんな真剣な顔してるの、久しぶりに見るんだけど。



「いつも一緒に居たなまえだから分かるんだ」
「……そっか、
まあわたしも友達よりはりょうのことの方が分かる時あるしね」



もう家族みたいな感じだしなあ、と笑って答えると、りょうは少しだけ顔の皺を眉間に集めていた。

あれ、なんか怒ってる…?



「なまえ」
「うん?」
「制服、似合ってたぞ」
「…?
制服かわいいもんね」
「そうじゃなくて、」





クライマックスはいつか話します




(なまえが、かわいいから
何でも似合うんだ)

幼馴染だから、わたしのことが分かるのか。
わたしのことがすきだから、わたしのことが分かるのか。

それは、赤くなった彼の耳が物語っていて。

わたしよりわたしのことが分かる彼は、いつの間にか千切っていたあれと一緒にわたしの手を握って、再び通学路を進み始めた。
その先は、いつもの家じゃなくて、幸せな未来だったらいいな、なんて。










キーワードは「いつも通り」
冷静なヒロインがすきです、個人的に!
くそ、これだれだよ!了平じゃない!!

幼馴染が恋愛対象に変わるなんて、そんなのガチで漫画の世界だけだからね!
管理人の実話談でした(笑)

いまさらですが、書きあがってから持田さんと了平が同級生じゃないことに気が付いた。
書き直そうかな…もう、いいや、とあきらめた結果こうなりました、ごめんなさい。


受験生応援企画第二弾、12/04/01までフリーです!


お題:ポピーを抱いてより


七瀬 12_03_30




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