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  遮られた視線が気になって








肩で風を切って、だなんてかっこいいことを言えるような状況ではないけど、わたしは走っていた。途中で声を掛けてくれた友達はスルーする形になってしまったけど、ごめん。後でちゃんと謝るから。普段なら校舎内を走るなと怒鳴ってくる先生達も、皆が生徒玄関前に集まっているからか、誰ともすれ違わない。嗚呼、何だか寂しい。(別に怒られたいとか、そんな趣味の人ではないけど)



「あ、」
「……みょうじ?
どーしたんだよ、走って来たのか?」
「………あ、安形せんぱい」



中庭に、一人空を見上げる広い背中。その視線は真っ直ぐ上に、全く迷いもなく向けられている。胸に咲いている赤い造花が、先輩が今日巣立つ卒業生の一員なのだと物語っている。ま、まって、わたしの涙。今は―――――



「ご卒業、おめでとうございます」
「かっかっか、ありがとな」



笑って、先輩を送り出すんだ。分かってはいても、実際に先輩の姿を見てしまえば、やっぱりこれが現実なのだと実感してしまう。ああ、やっぱり悲しい。



「何だ、もしかして俺にわざわざ言うために走って来たのか?」



その言葉の後には、「なんてな、冗談だって」といつもかわす会話のように続けようとしてくれた先輩には申し訳ないけど。



「はい」



それは、今日は事実な訳で。



やっと振り返って、空ではなくわたしを瞳に映した先輩は、驚いた顔をしていた。
先輩のそんな顔、レアだなあ。
先輩が卒業する前に見られてよかった。(あ、もう式は終わったんだし、卒業しちゃったのか)



「何だよみょうじ、今日は珍しく素直だな」
「だって、先輩と会えるの最後じゃないですか」



いや。そんなのいやだ。それでもどんなにわたしが思っても、先輩はわたしよりも歳が上だから先輩な訳で。ああ、運命って残酷。(なんてちょっと利口ぶってみる)口に出すと本当にそうなってしまいそうで、ああ、悲しい。



「だから、わたし
先輩に…伝えたいことがあって」



走ったせいで速くなっていた鼓動が、さらに速くなる。おさまれ、だなんて今のわたしには無理な話だから。よし、早く伝えてしまおう。今日の為に、たくさん考えたじゃない。わたしの汗ばんだ手は、スカートの裾を握り締めた。



「その、わたし…」





―――――先輩のことが、すきです。





「先輩、受験とか生徒会とかで忙しいかなって思って
余計な負担にしたくなかったし、…今日まで言えなかったんですけど
やっぱり、迷惑…でしたよね
すみません、忘れてくださ、い…」



決心して、顔を上げて話したはずなのに、気が付いたらわたしの視界には真っ暗で。あれ、これは地面?なに、下向いちゃってるのよ、わたし。



「あ、れ?」
「負担とか、迷惑とか……変なこと言うなよ」
「!」



すぐ近くで先輩の声がした。あれ、どうして。頭を動かして見ると、わたしの視界に先輩の首が見えた。あれ、何で抱きつかれてるんだろう。



「本当バカだな、みょうじは」
「す、すみません…」
「何で先に言っちゃうんだよ」
「すみませ、………え?」



顔を上げる。すると、見えたのは耳まで赤くなっている先輩の顔。あ、照れてる?そんなことを考えていた一瞬のうちに、わたしの視界がまた真っ暗になった。



「俺は一度もみょうじのこと、迷惑なんて思ったことねえし
俺が……負担なわけじゃねえけど、お前のこと考えてんのはいつものことだよ」
「……あ、あの、せんぱぃ…」



それって





遮られた視線が気になって




(今こっち見んな、(絶対顔赤いんだろうな))

(は、はい…(期待して、いいんだろうか))










キーワードは「悲しい」
でも、まあ、結果的にはハッピーエンドでしたね( ´艸`)
よかったよかった!実は安形すきだよ!

前回とかは友達、友情がテーマだったけど
今回は恋愛をテーマにしました!

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お題:ポピーを抱いてより


七瀬 12_03_22




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