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  シンドリア








「こら!なまえ!」
「なまえは悪くないもん!ジャーファが構ってくれないのが悪いのー!」



目の前に立ち塞がるしかめっ面のジャーファルをひらりとかわし、颯爽と逃げ去る空色。

ジャーファが悪いの!

文句を言いながら、端から見れば追いかけっこのように、逃げ回る空色とそれを追うジャーファル。

しかし至って本人達は真剣である。

2本の足で走っていたはずなのに、空色はいつの間にか4本の手足を地につけて走っていた。

あ、こら!マジで逃げるな!

ジャーファルの怒号に少し驚いたが、空色はスピードを一向に緩まない。

いや、緩ますわけにはいかないのだ。

風を受け靡くフードから、ひょこっと除く耳がぴくりと動き、鼻と目が反応する。

あ、これ、なまえの好きなにおい!



「お、やってるなあなまえ」
「シン!
ジャーファが!ジャーファが!」
「おや、ジャーファルくんどうしたのかね、そんなに怖い顔して」
「シン!あんたもか!!」



全く、どいつもこいつも言うこと聞かないんだから、と溜め息をついたジャーファルだったが、空色―――――なまえと呼ばれた少女に追い付くと直ぐに二人分の服の襟を掴んでいた。

まるで捕らえられた猫の親子である。

うにゃ、捕まった!

あれ、俺も?



「いーや!離してよー!!」
「全く、あなたは悪いところばかり飼い主に似るんですから」
「ジャ、ジャーファル…俺の首、絞まってる…!」
「知ってます」
「あのな、俺…王さまなんだけど!」
「知ってます
この裸王、とっとと戻って仕事しろ」
「いや…否定は出来ない、けど……し、絞まって…!!」
「シン弱いー!」
「な、なんだと…?!」
「うにゃっ!シンが怒ったよジャーファ!」



全く、あなたは状況を分かってるんですか?!

ジャーファルに自ら抱きついてきたなまえは、自身の置かれた状況が分かっていないよう。

全く、この子は単純なんだか、バカなんだか。



「あなた、今わたしに怒られてるんですよ?」
「!
で、でもなまえは悪くないからいいんだもん!」
「……」



自己中心的なのも、飼い主に似たようだった。



「全くあなたは、人騒がせな人ですね」
「なまえは猫だもん!だから人騒がせじゃないよー!」
「あーいえばこーいう!いい加減になさい!!
あなたがその気なら、今後一切食事はキャットフードしか出しませんからね!」
「?!
ジャーファ、ひどい!なまえあれ嫌いぃい!!」
「だったら言うこと聞いてさっさと謝りなさい」
「うぅ…」



ぺたん、と垂れてしまった空色の耳と尻尾に、ジャーファルの中に少し罪悪感がわいた。

だ、だめだ!惑わされるな!

いくら可哀想に見えるからって、甘やかしたら…!



「まあまあ、なまえも悪気があってやったわけじゃなさそうだし、許してあげようじゃないか
ところで…何をしたんだ?」


すかさず助け船を出してきたシンドバットに、ジャーファルの鋭い視線が飛ぶ。

いや、いいとこどりをしようとしたわけじゃないからな?!

擦り寄ってきたなまえを抱き締めながら視線で訴えてみるが、ジャーファルは冷ややかな目。

どんだけ信用無いんだ、俺。



「ジャーファの紙、破った!」
「紙……え?書類を?」
「はい、今回新しく検討中の貿易相手国へと提出するものです」
「それって、滅茶苦茶大切じゃないか!」
「だから怒ってるんじゃないですか!!」
「シンまで怒るの…?!」



さっきいいって言ったのに!ウソつき!

腕の中で抵抗してくるなまえはかわいいものだったが、事態は深刻。

いや、さっきは許すって言ったけど。

状況が状況だろ…!



「あんたが日頃から甘やかしてるから悪い」
「……それを言うならジャーファル、君だって!」
「わたしはちゃんと、ある程度のことは我慢させますし、自分でやらせますよ」
「…う、」



慌てるシンドバットに、ジャーファルがとどめをさした。

項垂れるシンドバットにも、関係ないとばかりになまえは抵抗を続ける。

寧ろ気づいてない。

そんなとき、ひくりとなまえの鼻が反応した。

これは…



「マルー!」
「…何してんすか、二人して」



この世の終わりみたいな顔してます。



「終わったも同然なんだけどな」
「…はあ、?」
「マルー!遊んでー!」
「元はと言えば、あなたが原因ですからね?!」
「!
ジャーファ、また怒ったー!」



シンドバットの腕の中から逃げ出して、なまえはマスルールへと飛び付いた。

慣れているからなのかたいして驚きもせず、マスルールはなまえを受け止めると、そのまま抱き寄せる。

よく状況は分かんないスけど、役得ってヤツっスね。

マスルールが頭を撫でてあげれば、なまえは自ら擦り寄ってくる。

こうして続けたやりとりの結果、シンドバットとジャーファルの額には大量の汗が―――――マスルールの膝の上には猫のように丸くなって眠るなまえが出来上がった。

いや、事実、










彼女は猫である




(全く、人の気も知らないで…気持ち良さそうに寝てますね)
(寝る子はよく育つって言うしな)
(…素直でいい子だとは思うんですけどね)
(…ああ、ちょっとは我慢させようと思う)










初マギはシンドリアのシンドバット、ジャーファル、マスルールでした!
マスルール落ちなんだろうか…
半獣の女の子をついつい甘やかしちゃうシンドリアです。
ネタ帳に以前載せたネタですね、詳しくはそちらをどうぞ、なんちゃって。

それより、シンドリアに…マギの世界にキャットフードはあるのかな…?

クリスマスは全く関係ないですね、すみませんでした(m´・ω・`)m


12_12_24




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