一時間目:世界平和

Step.5 1-1


呪術を学ぶ学校になんて別に行きたくは無かった。
呪いがいくら何をしようと興味なんて全く無かったし、呪霊の被害とか他人の人生とか本当にどうでも良い…という思いは、学生時代から時間が経った今も然程変わらない。
まともな親が居なくて、後ろ楯も金も無かったから入学したまで。別に、金を稼ぐ手段なんて風俗でもアスベスト作業従事者でも何でも良かったのだが、人と関わる仕事がはっきり言って嫌だったのだけは確かだ。


だがしかし、入学したは良いものの、同期の奴等が片っ端から優秀でやる気なんてすぐに無くなった。
真面目に頑張るのが馬鹿らしくなって、早々に集団…と言っても、片手の人数で収まってしまう数だが…まあ、仲良しグループからは離脱してしまった。
ボンボンの五条悟にはヘラヘラ笑われバカにされるし、夏油傑は弱者の気持ちがどうとかつまらない理屈で戦っている、私は何一つあのお団子前髪と共感出来なかった。同性の家入硝子は二人をクズだと言っていたが、君も大概だろうと未成年で煙草を嗜む姿を見て思った。
変わった人間ばかりの乱痴気パレード状態な職場兼学校のことを青春の場だと思ったことなど、結局卒業まで一度も無かった。

呪術師は面倒臭い、人間は嫌いだ。
そう頭の中で結論が出てしまえば後はわりと楽で、なるだけ人に関わらずに楽なことをして生きるために適当に頑張って適当に稼いで適当に生きた。
後輩が死んだ時も、夏油くんが離反した時も蚊帳の外から事態を眺めて自分がすべきことを淡々とこなしていた。
だから別に、本当に呪術界のことはどうだって良かったので、何の未練も無く卒業後に一年だけ呪術師として働いた後は気づいたら呪術師をやめていた。

でも私 本当は、






………






真人が夏油(羂索)に連れられてやって来たのは、鼻につく鉄と油の香りがするお高いマンションの一室だった。
チャイムを鳴らしもせずに、勝手に鍵を開けて中に入っていく夏油の後をついて行けば、幾つかある部屋の一室にその人間の女は居た。

「やあ 久しぶり、妹尾。今日はちょっと頼みがあって来たんだけど…今、いいかい?」
「誰、きみ…」

無愛想な態度で小さな機械を弄って組み立てる、成人もしていないような身体つきの女は、顔を一瞬上げて真人と羂索を見るとすぐに手元に視線を戻し、一言だけ口を開いてすぐに閉じた。

「ああ、失礼。こっちの呪霊は真人って言って」
「いや違うよ、きみだよきみ。夏油くん死んだんでしょ?高専に負けて」

「そう聞いたはずなんだけどな〜 …おっかしいなぁ〜…」と、何の危機感も無くゆるりとぼやいて、世間話のような感覚で偽物となった羂索の正体に踏み居る女に、真人は「夏油ってもしかしてマトモな友達居ないのかな?」と失礼なことを思いながら、そのやり取りを楽しく眺めていた。
羂索も羂索でそんな女の問いに特別な嫌悪や焦りなどを滲ませずに、まるで自分の可愛さを理解している女の子のような顔をして首を小さく傾げながら、ニコニコと笑顔で「生き返っちゃった」と穏やかに返す。

「生き返っちゃったかぁ〜…」
「嬉しくないかい?」
「正直あんまり……ところで、その額どうしたの?頭打った?」
「この傷跡を見てその質問は流石にどうなんだろうね」
「…痛そうだよね、ところでマジで誰なの?」

手を黒く汚れたタオルで拭いて、近くに置いてあった紙をペラペラと数枚チェックしながら妹尾と呼ばれた女は再度尋ねる。
その質問に、「夏油傑だよ」とニンマリ笑って羂索は自分の身体の名前を当たり前のように語る。

女は一度紙から視線を離し、暫し夏油を無感動に見つめた後に、「まあいいか、まともに悲しむ知り合いなんて五条くんくらいだろうし」と、何かに納得して話を聞く姿勢を取った。

「五条悟が悲しむのはいいのかい?」
「別に…そんなことより仕事の話を。ほら、何が欲しいの?ダブルバレル?エクスプローダー?マチェット?」
「ああ、今日はそっちじゃなくって…」

こっち、と真人を手で差し「銃について教えてあげて欲しい」と依頼内容を話す。

「ああ、インストラクターの方か…いいよ、その子は初心者?」
「どう?真人」
「え、俺?…銃は全然分かんない、ねえ夏油これやる必要本当にあるの?」

真人の質問に、「人間が使う武器について学んでおいて損は無いよ」と羂索は言い、女の元に近づき金の話をし始めた。
「いや、こんなにはいらない」との女の声が聞こえてくる。どんな金額を提示したのだろうか。
交渉は上手くいったのか、互いに頷き合って早々に終わりを告げる。羂索はテーブルから離れて「じゃあ、後はよろしく頼むよ」と一人勝手に部屋を出て行ってしまった。
真人は部屋の中に一人取り残され、立ち尽くしたまま女を見やる。

「真人くんだっけ?好きな国とかある?」
「国?無いよ、なんで?」
「無いなら別に何でも良いか…」
「ねえ、なんで?」

女はそのあとも真人に「好きな年代ある?」だの、「特定の人種差別ある?」だのと、何だかよく分からない質問を投げ掛ける。その大体において「無い」と答える真人は同じ数だけ「なんで?」と問うが、答えは返って来ない。

「じゃあ、とりあえず明日また来て。一回目の授業するから」
「ねえ、まだ名前も聞いて無いんだけど」
「ああ……別に、好きに呼べばいいよ。名前なんて個体を識別するための記号でしか無いんだから」
「それだと困るんだけど、何か無いの?」

んー…とあさっての方向へと視線を投げて、真人に戻した女は答える。

「先生って呼んでおけばいいんじゃないかな。私は明日から真人くんに銃を教える先生だからね」

先生…とは、学識のある指導者を指す言葉だ。自分が教えを受けている人、俺の先生。なんだか全然面白そうじゃないな…と、真人は唇を突き出してみる。
まあ、夏油の紹介だし…一回くらい付き合って銃を撃ってみるのも良いかな、何かのインスピレーションになるかもしれないし。もしつまんなかったら殺せば良いんだし。
そう結論を付けて、愛想良くニコニコ笑って見せれば、相手も軽く形だけ微笑んで「じゃ、また明日」と手をプラプラ振った。

あんまり面白そうな人間じゃ無いけど、呪術師だったらしいしストックくらいにはしても良いかもしれない。

真人はそう結論付けて、薄暗く油臭い部屋を後にした。


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