こちら、深海生活向上大臣 | ナノ


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いきなりですが、生物の始まりは何だと思いますか?

海中のプランクトン…微小の菌類、低分子有機物、コアセルベート(高分子集合体)、パンスペルミア説……

素晴らしい、どれも理論的追及の成された、人類誕生までの進化論に当てはまりますね。


でも、本当は違う。

「本当は、陸上」


「ストロマトライト」と言う、地下ずっと深く、深く、光も届かぬ底で、空気も存在しない場所で始まりの生命は発生したのです。

その微小の生命達は、己を守るため、自ら外殻として鉱物を産み出し纏ってみせた。

つまり、生命のはじまりとは………



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真面目な顔をして、真面目なことを口に出しておけば、案外内面の醜悪さはバレないものだ。

例えば、美しい物語を紡ぎ出す歴史的文豪だって、蓋を開けば不思議なくらいに人間性に問題がある者も居たりする。
他にも、天性の素質を兼ね備え、美しい歌声でファンを魅了するミュージシャンだって、そのファンを食い散らかしていたりするものだ。

人間は、必ずしも外面(そとづら)と内面が常に同一化しているわけではない。
外面なんてのは、その人間を構築する一部に過ぎないのだ。
だがしかし、大抵の人間はこの外面と呼ばれる「外殻」をとても重要視する。だからこそ、上手くやれば上手く騙せる。

実際私はそういう、外面を良くして人付き合いを限りなく円滑にしているタイプで、私のことをよく知る知人は「お前、呪詛師の方が向いてるかもな」と言ってのけたほどだ。
それについては私も同意を示す。
何故なら、私は平気で嘘をつき涙を流し、自分に有利だと思う方へ理由無く簡単に肩入れをし、適当な言葉で他人を言い包めるような奴だからだ。

そんなわけで、私は外面だけは完璧な人間を演じながら、この春から高専でやっていこうと思う。
そもそも何故私が外面を整えなければならないかと言うとだ、そこには山よりも気高く、谷よりも深いわけがあり…………って、待て…あ、あれは…!


自分の性格の醜さについて、勝手に脳内にて解説を垂れ流していると、私の鼓膜に遠くから「ムチッ♡ムチッ♡」という効果音が聞こえてきた。
勿論この効果音は他人には聞こえないし、実際には鳴っていない。私の脳内が勝手に付けてくれている効果音だ。

目を凝らし廊下の先をよく見れば、そこには我儘ボディの先輩が一人、こちらに向かって颯爽と歩いて来ていた。

で……………出た〜〜〜!!!はい、出ました!高専名物ケツデカドスケベお母さんこと夏油傑先輩!!!
今日も男性の平均値を上回る筋肉量のせいでムチムチになってしまっているケツと脚をボンタンで隠していますが、この世とは誠に理不尽な世の中になっており、隠すことでよりエッチに見えてしまうというハイパードスケベ理不尽パワーが彼を襲っていますねえ。
胸筋で膨らんだ胸元がふっくらしていて、まるで発酵中のパン生地のようですね、焼いたらさらに膨らむように、彼の胸も力を入れればさらにムキムキになるのではないでしょうか。いやぁ、これには母性に飢えた仔猫も飛び付くこと間違いナシ!

しかもあんな身体をしておいて、性格は世話焼きで後輩からも慕われており、時々ちょっと疲れ気味の時に見せる色気はまさに家庭に疲れたお母さんのよう…。
うーんこれはちょっと、言い訳出来ない程エッチですねぇ…ここが小さな集合住宅の玄関先で、私が性欲に負けた宅配員だったら秒で押し倒してましたよ。
「やめてくれ、私には大切な親友と後輩が!」「そんなこと言って、身体は正直なようだぜ?」「ああそんな、すまない皆…!」なんて………いやこれはちょっとゲス過ぎるか?私はもっとこう、先輩にはママみのあるプレイをだな……。

「やあ、お疲れ様」
「お疲れ様です、先輩」
「どうしたんだい?廊下でボンヤリしていたけれど…」
「いえ、ちょっと買いたい物について考えたりしていまして」

うぉ………でっか……。
夏油先輩全部デカイ、アホみたいにデカイ。
何を食べたらこんなに成長出来るんですか?ド●ホルンリンクルとか飲んでるからこんなにエッチなんですか?(※ド●ホルンリンクルはエッチになる飲料ではありません)

「買い物にでも行くのかい?」
「はい、今度一年生三人でピクニックするので、その買い出しに…」

私がそう言うと、先輩は上品にクスリッと笑った。

ま、マダムの笑い方やんけ……。
昼下りにバラの手入れをする庭師の冗談を聞いたマダムがする笑い方じゃん、こんなの私が性欲に負けた庭師だったら「さてはこの女、俺に気があるな?」って勘違いしていたよ。
そうじゃなくても性癖歪んじゃうよ、私はもう手遅れなくらい歪みに歪んで逆に、これが正しいんじゃない?って感じだから助かったけど。
ふぅ、危なかったぜ。

でも、実際なんで笑われたんだ?
いや、全然笑われて構わないんだけど、むしろ私如きの発言で微笑み頂けるのであれば、望まれればこの場で渾身の一発芸をやることも吝かではないのだが。

「すまない、今年の一年生は可愛いなって」

お前の方が可愛いよ。

お前の方が可愛いし綺麗だよ、鏡を見てご覧?この世で一番可愛い人間が写っているだろう?って肩を抱いて耳に息を吹き込みならホテルで言いたい。
しかし、外面だけは保ってきた私は余裕でそんな気持ちを仕舞い込み、「確かに」と笑った。

「先輩達はみんな強くて格好いいから…」
「三人もすぐ強くなるよ」
「ご期待に添えるよう、頑張ります!」

握りこぶしを作り、意気込みを表明。
うん、理想的な後輩の返しが出来たね。我ながら素晴らしい後輩力なんじゃないだろうか?勿論、灰原くんにはやや負けるが。

脳内にて自画自賛を行っていれば、頭にぽふっと何かが乗った気配がする。
見れば、夏油先輩が自愛に満ちた瞳でこちらを見ながら、頭を撫でていた。

「期待してるよ」
「あ、ありがとう…ございます…」
「でも、怪我には気を付けて」
「はい………」

あ、あ、あの……これは今世紀最大の新発見なんだが、私…………夏油先輩から産まれたかもしれない………。
これは嘘偽りの無い本当の記憶だと思うんだけど、私は夏油先輩から産まれたし、夏油先輩の母乳で育ったし、おしめも変えて貰ったし、お風呂にも入れて貰った。
玩具を口にしてしまう私に、「こら、何でも口に入れたら駄目だろう?」って注意してくれたし、小学校の入学式には私の成長に涙ぐんでいたはずだ。
絶対そうだって、この人が私のママですよ。全ての細胞がそう訴えてる、間違い無い。

は、はわ……はわわ………喜びと感動と興奮で指先が冷たくなってきた。
私、ここで、このまま、死ぬかもしれない。

なでくりなでくり。
私を撫でることが楽しくなったのか、次第に夏油先輩は先程よりも強めに頭を撫で始めた。
まるで飼い犬を可愛がるかのように、モシャモシャ、ワシャワシャと両手で髪を搔き回し、「癒やされる…」と呟く。

ママ……ママの癒やしになるなら、幾らでも撫でていいんだよ。
そんな思いで、私はその場に突っ立ったまま撫でくり回されていた。

暫くして、ハッとした夏油先輩は、「いけない、呼び出されていたんだった」と手を止める。

「すまない、私はこれで失礼するよ」
「行ってらっしゃいませ〜」
「ああ、髪をボサボサにしてしまった…」
「お気になさらず〜」

強く撫でられ過ぎて、若干クラクラと目を回しながらも私はなんとか言葉を返す。
どうにか笑みを作り片手を振れば、夏油先輩は「すまない、急いでるからまた今度」と謝ってから足早に行ってしまった。

後ろ姿からまた、ムチッ♡ムチッ♡と効果音がしてくる。(幻聴)
あんな大きなケツを振りながら歩きやがって……あのケツ、法律に反してるんじゃないか?ケツをデカくするなら法律を守ってくれ、道端で出会った少年がうっかり精通してしまったらどう責任を取るっていうんだ。
まったく……夏油先輩は今日も最高だな。


ボサボサになった頭を手櫛で整えながら、廊下を歩く。

私は、この春から呪術高専に入学した新一年生である。
今まで住んでいたお家は京都の方にある、お堅いとこ。
伝統を大切にする厳格な方針の家でお世話になったからなのか、昔から様々な欲求を抑圧されてきた反動かは知らないが、気付いた頃には人一倍スケベなことに興味を持つようになってしまった。

といっても、見た目と外面だけは淑女な私は人に許可無く手を出したりなどしない。
先程のように、脳内でエッチだな…と思うだけである。

ちなみに、勿論処女だ。
そういうことはしちゃいけません!って言われているから、私はただただ日夜他人のことをエッチな目で見て終わるだけ。

ある意味健全、ある意味不健全。
どちらとも言えるような奴になってしまった。
だがしかし、この事実を知っている者は僅かばかりしか居ない。
だから多分大丈夫、私は今日も素敵で可愛い健気なお嬢さんとして生きている。

さあ、今日も健康で健全で健やかな、全年齢向け少女としてやっていくぞ!

えい、えい、おっぱいー!



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