七海さんから好きな物を聞かれたので、私は「ニョロトノ、バスラオ、マリルリ」と答えたが、「いえ、ポケモンについて聞いたのではありません」とバッサリ言われてしまった。

「えっ………じゃあ、えっと…リズム天国のポリリズム…コールオブデューティー・ブラックオプス3…」
「私の言葉が足りませんでしたね、花や食べ物、動物などで答えて頂けませんか」

花……？動物…？？食べ…物……？？？
そう言われても何一つパッと思い付かない、花…花ってあの、何か女の子が好きそうな植物類の？何だ……え、花って何があるんだ？？キレイハナ…はポケモンだ、えっと、えっとぉ……。
………よーし！気を取り直して動物について考えようかな。好きな動物……そもそも動物って何が居たっけ、人間？待ってくれ、特別好きな動物ってとくに無いかもしれない、どうしよう…。
食べ物、食べ物……食にはそこまで関心が……あれ？私、もしかして相当つまらない人間なのでは？

私は悩みに悩んで答えようと手をバタつかせ、口を開けたり閉じたりした。
七海さんは何も言わずにこちらをジィ……っと見ている。おい、そんなに見るな、見せもんじゃないぞ。

「ｳｸﾞｸﾞ……」
「三次元に好きな物無いんですね」
「ﾅｲﾃﾞｼｭ……」

悩んだけど無かったです。
比較対照が居なかったし、聞いてくる人も居なかったから今の今まで気付かなかったが、私…二次元に傾倒し過ぎやしないか？こりゃ不味い、もっと三次元にも目を向けていかねば……。

「あっ、でも」

私は一つ思い付いたことを、手を一度ポンッと鳴らして口にした。

「七海さんが買ってくれるパンは大体美味しいので好きです」
「……そうですか」
「……どうして不服そうな顔してるんですか？」

むしろ喜ぶポイントでは無いんですか？あ、無いんですね。

「好きなのは、私が買ったパンだけですか」

七海さんの言葉に、私はピンッとセンサーが働いた……。
これ……進研ゼミでやったやつだ！！(進研ゼミ＝ギャルゲー)
即ち、「好きってそっちの方！？」理論だろう。「好きなのは私が作ったお弁当だけ？」という攻略キャラの台詞に対して、鈍感系主人公くんが「こっちのデザートも美味いよ」とか言っちゃうやつだ。
この台詞………ズバリ、「好きなのは、私が買ったパンだけですか」の後には、「私のことは？」がカッコでついてると見た！
フフン、アマガミで鍛えられた私のヒロイン攻略スキル、見せてやろうじゃねぇの！！

私の最強の返答はこれだあ！(ここまで現実時間は2秒しか経っていない)

「もちろん、七海さんのことも好きですよ！」

ドヤァ……。
胸を張り自信満々に言った、が……

「そうですか、で？パン以外は？私、貴女には色々と買い与えていますが」
「あ、え、ぁ………ｱｯ……」
「貴女いつも感想無く食べきってしまいますよね、少しは食べた時に何か言って頂けないとと買い物に困るんですが」
「ｱｯ……ｽﾐﾏｾﾝ…」

不服そうな表情にはちゃんとした理由があった。そらそうや、七海さんはギャルゲーのヒロインでは無い。
七海さん大人だもんね、ちょっと危ない思考回路してるけど色んなことを経験してきた大人だもんね…ギャルゲーのヒロインみたいなノリで可愛い嫉妬しないよね……嫉妬するとしたらとんでもない仕方しそうだもんね、流血沙汰や私の生命が危なくなりそうだもんね…。

「いつも美味しく頂いてます、感謝してます…」
「それは何よりです、で」
「で？」

え、まだ何かあるんですか？私、まだ精神を磨り減らさなきゃならないんですか？
もう勘弁してくれ、私には人と喋る才能が無いんだ……2チャンネルでもずっとロムってた人間なんだ…ニコニコな動画でもコメント打ったことないんだよ……私はそういう人間なんだ…。

どんどんテンションが下がっていく私をいつもと変わらぬヒンヤリしたおめめで見下ろしながら、七海さんは「で…何でしたっけ」と口にした。

「私のことも、何でしたか？すみません、よく聞こえなかったのでもう一度言って貰えますか？」
「絶対聞こえてたやつじゃん」
「聞こえませんでした、全く」

ヒロインスキル「難聴」を発揮すな。
必死だな…そんなに必死にならなくとも、私からの好意的な言葉であれば幾らでも言うのに。

「七海さんのこと、好きですよ」

私の嘘偽り無い言葉に、七海さんは少し口元を歪ませた。
これはきっと喜んでるな、よし…さらに追撃だ！もっと喜べ！！

「ピポサルと同じくらい好きです」
「…は？」
「サルゲッチュ2は名作なんです、それと同じくらい貴方との旅は楽しいですよ」
「…は？」

私は私が与えられる最上級に近い褒め言葉を七海さんに贈れて満足した。

七海さんは拗ねた。