ママにはナイショ


皆が大人になってからの話



「こちら高専名物、謎の生命体Xことスピカちゃんでーす!」と五条の片腕に抱かれて登場した白い少女は、真顔で「離して下さい」「近いです」「触らないで」「やだ」「ママに言いつけます」などと繰り返し言いながらささやかな抵抗を繰り返していた。

本日は無礼講な酒の席、皆飲めや騒げやと言った様子でドンチャカドンチャカ酒を酌み交わしてはツマミを口に放り込み、空のジョッキをテーブルの端に寄せて笑い合ったり何だりしている。
こういった騒ぎが好きな五条は、酒が飲めなくとも参加する以降を前々から伝えており、任務で遅れることになると分かっても欠席の連絡を入れることは絶対にしなかった。

ただ行ってもツマラナイ。
帰りの車内で唐突に閃いた五条は、高専に一度寄ると、男子寮の一室へと足を進めた。
遠慮無く扉を数回ゴンゴンと叩き鳴らしながら、「いるー?いるんでしょー?ねー、早くしてくんない?ねーってばー」と遠慮という言葉の一切を理解しない態度で扉の向こうの人物を呼び起こした。
五条の声に反応したらしい部屋の住民は、ドタバタと音を立てながら部屋の鍵を開けると、小さく扉を開きながら「はい……」と目をショボショボさせながら起き抜けの表情を携えて現れた。

「寝てたの?まだ8時なんだけど、流石に早すぎじゃない?」
「やることなくて…」
「だったら丁度良いね、ほら出掛けるから着替え……いや、このままでも…」
「どうか2分程お待ちを」

少女の母を自称する男の趣味を全開にして買われたであろうルームウェアに身を包んだ、なんとも庇護欲そそる姿の全身を見下ろし「これはこれでアリ」と判断した五条がそのままの格好で連れだそうとするも、当の少女は良しとせず、部屋の中へと素早く戻って行った。

鍵の開かれたままの部屋に、遠慮を何処かへ忘れてきた五条も続けて入る。
咎める言葉の一つも吐かないで、少女はクローゼットを開くと、いそいそと着替えのための衣服を選び始めた。
被って襟を整えれば終わりなワンピースを素早く手に取り、勝手知ったる様子でベッドにて寛ぐ男の存在など無視して着ている物を脱いで行く。

「いや、遠慮無さすぎじゃない?もう少し躊躇ってよ、いや〜んって」
「嫌?何がですか?衣服を着替えることを躊躇わなければいけない理由があるのですか?」
「出た、なぜなぜ期」

頭から被ったワンピースを下に引っ張り、形を整え、髪を払えば着替えは終わった。
五条がベッドから立ち上がり玄関へと向かうのに合わせて、少女も同じ方へと着いて行き、靴を履いて玄関から出て鍵を閉める。

「何処へ向かうのですか?」
「それは着いてからのお楽しみ」
「寝てていいですか?」
「…寝る子は育つって言うけど、お前は全く変わんないよね」

マスクのせいで何処か曖昧に感じる笑みに首を傾げながら、「はい、そうですね」と返した少女を引き連れ車へと戻った五条は、少女に行き先を伝えぬままに飲み会の会場へと到着し、ご機嫌な笑みを浮かべながら少女を抱き上げ会場に入って行った。

「こういう場所の匂い苦手です」
「でもアイスあるよ」
「アイスは好きです」
「じゃあ食べちゃおっか」

空いていた席に少女を座らせ隣の席に腰を下ろした五条は、渡されたメニューを捲る。

「ほら、アイスの他にも色々あるよ」
「でもお夕飯食べちゃいました…」
「いいよ、ママにはナイショにしといてあげる」
「ほんと?」
「本当、ナイショね」

まるで親戚の子に悪い遊びを教えるような気持ちで、五条はメニューを隣の少女にも見易いようにしてやった。

二人は酒の席にて一滴たりともアルコールを口にせず、甘いスイーツとソフトドリンクをひたすらに口へ運んだ。


しかし翌日、きっちり少女の母には連絡が行ったらしく、それを知った五条は一人だけ逃げたのだった。



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