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なんと、星漿体の護衛任務があるらしい。星漿体……天元様と適合出来る人間、うーん…ちょっと気になるなあ、ヒトゲノムがやはり特殊なのだろうか?不死の術式を持つ者の器になれるのは何故?体のメカニズムを解き明かしたい、星漿体の身体について何か発見があれば、天元様についてもっと理解を深められる可能性が……不死の概念、細胞の劣化スピード…呪力との関係性……。

ということをブツブツ言っていたら任務から外された、悲しいので可愛い後輩ちゃんに慰めて貰っている。
えーん!夜蛾ティーひどいよおー!

「よしよし、先輩泣かないで、おにぎり食べる?」
「グスッ、何味?」
「梅だよ」
「いらない〜〜〜!」
「灰原、食べ掛けの物を人に差し出すのは…」

鮭が良かったよ〜〜〜!出来ればハラスが良かったよ〜〜!後輩にひっついて泣きながら、常日頃感じる理不尽を吐き出しまくった。

まず、最近の五条くんは私への扱いが半端なく雑だ。
みんなで桃鉄をした時も、最下位だった奴は罰ゲームな〜って五条くんが言い出して、私が「じゃあ負けた人は親を殴る!」って提案したら、五条くん……「お前はそれプラスAC●Mで15万借りて来いよ」って笑いながら言って来たんだよ。夏油くんが苦笑しながら「AC●Mは利子が凄いから、素手でう●こ掴むくらいじゃ駄目かな?」とフォローしてくれたお陰でAC●Mで借金せずに済んだけど…。

「五条くん酷いんだよ!俺が負けたら連帯責任でお前も責任取って全裸になれって!」
「いえ、夏油さんも大概だと…」
「先輩は結局負けたんですか?」
「勝ったけど」
「良かった〜!」

良くないけど?何も良くないよ?結局勝ったのに「お前ゲーム強すぎてツマンネ」とか言われるし、夏油くんも「こら悟、本当のことを言っては駄目だろ」とか全くフォローになってないこと言うし。
あれ……?もしかして私、夏油くんにも雑な扱いされ始めたのでは…?
そうなりゃもう頼れるのは硝子ちゃんと後輩ちゃん達だけなんだけど、え?私…もしかして雑に扱っても許される人間だと思われてる?ひ、酷い…!

「二人は私のこと尊敬してくれるよね?リスペクトしまくりだよね?」
「僕はリスペクトしまくりです!」
「灰原くん大好き〜〜〜!!君が死んだ時は私の「お嫁さん」第一号にしてあげようね」
「先輩待って下さい、灰原に一体何をしようとしてるんですか、離れて下さい」

七海くんによって灰原くんからベリッと引き離され、ていっと床に捨てられた。ひ、酷い…!家の人くらいにしか捨てられたこと無いのに!

もうやってらんねーって感じだ、護衛任務は外されるし、最強親友コンビには雑に扱われるし、後輩には床に捨てられるし、野良猫には無視されるし、捕まえた蝶は繁殖に失敗するし…。
あとついでに前に実家へ帰った時、お兄ちゃんにあんまり纏わりついてたせいで無言で部屋からツマミ出されたし。しかし、それくらいでめげる私ではありませんのでね、夜中にコソコソ部屋に侵入して布団に入り込みましたからね。いや、正確に言うと、入り込もうとしたら目を覚ましたお兄ちゃんにまた無言で部屋からツマミ出されましたね。子猫を移動させる親猫の如く襟を摘ままれて部屋の外に締め出されちゃった。でも、翌日も朝御飯を隣で食べたよ。
可愛い妹が「私はお兄ちゃん、クマさんみたいで好きだよ!」って満点笑顔で伝えても、何にも反応無かったけどね。無反応貫かれたからシャイなんだなって思うことにした、うふふ、お兄ちゃんったら〜!んも〜、照れ屋さん!

ってことを直哉くんに自慢したら、絵に描いたような「うわぁ……」て顔してた。
引くなよ、いいでしょ別にお兄ちゃんにじゃれてたって。だって懐いてた方の兄は私を置いて何処かへ行って帰って来ないんだから。仕方無いじゃんね、甚爾お兄ちゃんを苦しめた人達の代表ってことで甚壱お兄ちゃんには責任を持って私を可愛がらなければならないのだ。いうて、兄弟親戚間で何処と何処が仲悪かったか知らないから、甚壱お兄ちゃんが甚爾お兄ちゃんをどう見てたかは知らないけどね。別にそこはどうでも良いし、私にとって重要なのは甘やかしてくれる相手が居なくなったってことだけだ。
だから変わりを求めるのは当然のこと、しかし結局今の今までそんな相手は捕まえられていないけど。
やっぱり甚爾お兄ちゃんがいいな〜!まだ死んだ知らせは無いから、生きて会えた時には……うふふふ!!

床に転がりながら、お兄ちゃんの死体で行いたい実験について考えていたら思わず笑い声が漏れてしまった、くふくふと口元に手を当てて笑っていると、眉間にシワを寄せた七海くんが冷たい瞳をしながら私を無理矢理起き上がらせた。介護かな?

「床に寝ないで下さい、汚い…」
「七海くんが転がしたんだよ?」
「先輩、背中に砂ついてますよ!」
「え、うわ〜!やだ〜!」

本当だ、背中を触るとジャリジャリとしている、きったね!
灰原くんはとっても優しい良い子なので、「払いますよ!」と手を伸ばしてくれたが、後輩にこんな誰がどんな靴で踏んだか分からない砂利を触らせるわけにはいかないと拒んだ。
そして、二人にちょっと離れるように言う。

私の術式は、手っ取り早く言ってしまえば石を生み出す術式だ。そうして生み出した石に呪力を込めて何やかんやという訳である。
過去に私と同じ術式を持っていた人は、金のなる木にされるか、可能性に気付くかの二択であった。私は後者である。
だがしかし、そこで終わらないのが天才が天才たる所以なわけで…。

背中の中心、椎骨が並ぶ中の胸椎12個のうちの一つへ呪力を流し込む。

身体の内側、皮膚…真皮層の下からピリピリと皮膚を痺れさせる感覚が走る。
次の瞬間、丸めた背中からバチッバチッと天井へ向けて白く目映い稲妻が走った。
白金の火花を散らし、触れれば焼け焦げ感電するような電気が一瞬私を包み込む。

これは、私の体内に呪力を込めて埋め込んだ鉄電気石の効果を発動させたものだ。
鉄電気石とは、電気石スーパーグループに属する鉱物の一つである。結晶を熱することで電気を帯びる焦電性という性質があり、宝石としてはトルマリンなどがよく知られる物であろう。
鉄電気石はトルマリンとは違い、ほぼ宝石として市場には出回ることは無いが、焦電性を利用して服のホコリ取りに用いられていたりする。
ちなみに有名な産地はアフガニスタンやブラジルなんかだが、日本でも福島や大分なんかでペグマタイトと共に見付かる。

なので、七海くんが「こんなことのために術式を使っていいんですか」みたいな目でこちらを見てくるが、元々服のホコリ取るために使われてる石なんだから、静電気でホコリを払うことの何が悪いと言うのか。
ちゃんと加減したからどこも焦げて無いよ。服も綺麗になったし文句無いね。

未だパチパチと発せられる静電気を静めるように一度深く呼吸をすれば、何事も無かったかのように汚れの無いピカピカの制服状態の私へと戻った。

「先輩ピカ●ュウみたいなこと出来るんですか!」
「私はピ●チュウにはなれないけど、マウスちゃんをピ●チュウに生まれ変えらんないかの実験はしてるよ」

まだ成功してないけど。
いつか成功したら見せてあげるね〜!と後輩ちゃんズに手を振り別れを告げ、私は教室へと戻ることにした。

最近皆忙しそうで中々会えない、だから何となくつまんない。
時々退屈に殺されそうだ、呪霊相手の実験や検証も飽きて来たし……そろそろ本格的に「プランN」を始動しようか。
そうなると…やはり一刻も早く実験体の確保が必要不可欠、どうにかして手に入らないだろうか、あの男。


呪力を持たない生命体。
私の兄、甚爾を……早く捕らえて殺して、その身体で実験したいな。

だってお兄ちゃんは私を置いて行ったから、だから全力で追い付くことにしたの。
憎い、嫌い、恨めしい。でも大好き。私の願いを叶えられるのは、この世界でお兄ちゃんだけだ。お兄ちゃんだけが唯一私の心に触れて壊したのだから、責任を取らなければならないと思う。
追い付いたら、そしたら、私の我が儘全部叶えて貰うんだ。

そのために死体にさせてね。



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