好き、だとか。

そんな簡単な言葉で想いを伝えられるなら、きっと私達は苦労なんてしないんだろうなぁ、と。

放課後の帰り道、歩きながら考えた思考はぼんやりとしていて、考えた内に溶けて消えていくようだった。


「どうかしたか?」

「んー、なんでもない」


隣で綺麗に微笑んで尋ねる彼が、よくわからない。

綺麗で、綺麗すぎて、どうにも触れてはいけないもののように思えて。

鋭利な刃物に似ている雰囲気があるようで、触れられない。

一緒にいるのに、きっと私達は同じものを見ていないんだろうなぁ、なんて。


「氷室ー」

「ん?」

「手、繋いでも良い?」


私の言葉に少しだけ驚いた素振りを見せて、また、綺麗に微笑む。

柔らかくて、温かい空間にいるのだと実感する。

実感するのに。

どこかに私達の関係を覆う膜のようなものがあるように感じた。


「どうしたんだ?今日は珍しく甘えるな」

「たまには、ね」


たまには、こういうのもいいと思ったの。

絡めた指先は確かに繋がっているはずなのに、お互いの温もりを感じるのに、貴方の笑顔もこんなに近いのに。

それでもやっぱり、彼と私は、きっとお互いに繋がっていない。







離れた手はただ冷たくなるばかりで



お題配布元:確かに恋だった



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