貴方が見せてくれる世界というのは、とても色付いたものだった。

私が見ている世界に色がないなんて言わないけれど、貴方が居てくれたからこそ、暖かな色に色付いたのは確かで。

ふわふわとしていて、足場が掴めなかった私の立ち位置を与えてくれたのだと、そう思う。

私がそう言ったとしても、貴方はそれは言い過ぎじゃないかな、と困ったように笑うかもしれないけれど。

カラハ・シャール領主、シャール家当主のクレイン様。

街のことを想い、若いながらもしっかりとこの街の自由を守っている人。

私は元々カラハ・シャールに住んでいた訳ではなかったけれど、六家のことは知っていたし、その延長線上として彼のことも知っていた。

最初は、ただそれだけだった。

私の足が不自由になって、今までの生活が困難になってしまってから此処へやって来るまでは、それだけだったはずだ。

だから、気分転換にと家族に街へ連れ出された時にはとても驚いた。

噂の領主様が街の人に気軽に声を掛ける姿にも、見知らぬ私に対して声を掛けてくれたことにも。

同情から声を掛けてくれたのではないかと、最初はそう思った。

今となっては懐かしい思い出だが、クレイン様の人柄に触れる内に、彼はそういう人なのだと知ることができた。

本当に、思いやりのある方なのだと。

ただの一般人の私と領主である彼の出会いは本当に偶然だったけれど、私にとっては大きなきっかけだった。


「こんなに親しくなれるなんて思わなかった」


誰も周りにいないことを知りながら呟いて、鏡に写った自分を見る。

髪ははねていないか、服装は変じゃないか、なんて。

まるでデートにでも行くみたいだと考えて、恥ずかしさに妙な声がもれる。

いや、デートと言っても間違いじゃないのかもしれない。

クレイン様が一緒に何処かへ行かないかと誘ってくれたのだし、と。

そう自身に言い聞かせても、一度ふわふわと浮かんでしまった気持ちというのはなかなか収まってはくれなくて、小さく溜め息。

行動が制限されてしまうと言っても、ある程度のことは自分一人でもなんとかできる。

それでも、彼に何か迷惑になるようなことをしてしまったらと考えると溜め息をつかずにはいられない。

そろそろ時間だろうかと玄関を出ると、丁度クレイン様がこちらへやってくるところで、自然と心拍数が上がった。


「やあ、名前。準備は大丈夫かな」

「はい、大丈夫です。今日はよろしくお願いしますよ」

「こちらこそ、よろしく頼むよ」


クレイン様のふわりとした笑みに自然と私も笑顔になっていて、本当にこの人は凄いなぁ、と感心してしまう。

視線を合わせるのが少し恥ずかしくて視線を地面へと落とす。

ふと、視線を感じてクレイン様を見れば、その綺麗な指で、私の髪を、撫で、た。

突然のことに口が利けなくなる私をよそに、薄く微笑んで告げられた言葉に、完全に頭の中が真っ白になる。


「今日はいつもと少し雰囲気が違うね。とても似合ってる」


髪を撫でた指先がそのまま頬を滑って、くらりと、目眩を感じたような気がした。





貴方が見せる世界の眩しさ



-----

優香様より、足の不自由な夢主とデートで甘い話、というリクエストで書かせて頂きました。
足が不自由…というところを活かすのってとても難しいですね。
技量不足を痛感させられましたが、楽しく書くことができました!

優香様、リクエストありがとうございました!



- ナノ -