ここで過ごすようになって、もう数年になる。

長くも短くも感じる年月は、私の中で緩やかに過ぎていくようだった。

研究所の室内は明るく照らされているが、それは照明独特の明るさだ。

どことなく室内らしい薄暗さがあるように見えるし、やっぱり外の光や空気とは違う。

窓から零れる日差しがやけに暖かに感じるのは、そのせいだろうか。

増霊極の研究所。

私はその増霊極の被験体だ。

被験体という言葉には重たい響きがあったが、私にとってはそういう重く暗いものではなかった。

最近、増霊極の実験の対象として集められてた子ども達の面倒を見ることが多い。

実験の対象というだけでまだ増霊極は配られていないようだったけれど、様子を見に行けば無邪気に遊んでいるのだから、なんとも研究所らしくなくて、笑みが零れる。

思い思いの遊びをする子ども達を見ていると、こんな場所でも幸せなのかもしれないと思わされるのだから、不思議なものだ。

ふわふわとした不安定な足場に立っているようなのに、心はどこか温かくて。

複雑なものだなぁ、なんて感じながら、服の袖を引かれるがままに子ども達と遊んでいる私は、なんなのだろう。


「此処に慣れちゃったんだろうなぁ」


誰に言うでもなく呟けば、側で絵を描いていた女の子がキョトンとした目で首を傾げた。

なんでもないという意味を込めて微笑めば、微笑み返して、自分の描いている絵について説明してくれる。

本当に、素直で、無邪気で、可愛いなぁ、なんて。


「名前」

「あ、ウィンガルさん」


呼ばれた声の方向へと顔を向ければ、私の被験体としての先輩であり、この研究の指揮を任されている彼がそこにいた。

すらりとした細身の男性。

それでも、前よりも大分健康的になったという印象を抱くことができる。

下ろしていた腰を上げて彼の元へと小走り。

急ぐ必要はないのかもしれないけど、何かと多忙らしい彼にとっては、その些細な時間でさえ大きい気がした。


「お久しぶりです。今日は顔色も良さそうですね」

「余計な気遣いはしなくていい」

「それは失礼しました」


以前の彼の様子というのは、見ているこちらまでが苦しくなるような、そういうものだった。

心配するなというのは無理な話だと思うし、彼の調子が良いのなら、それは私にとって素直に喜ばしいことだ。


「子ども達の様子はどうだ」

「見ての通りですよ。私に子ども達の相手を任せるのはわかりますけど、たまには自分で面倒見てあげればいいのに」

「俺は、」


何かを言いかけて、止まる。

そして、少しだけ困った顔で、彼は自分の足元へと目を向けた。

つられて同じ場所へと視線を向ければ、男の子がふわふわとした笑顔で彼の服を掴んでいた。

小さな子に懐かれるウィンガルさんというのが少し面白くて、自然と笑い声がもれれば、きつく睨まれる。


「ウィンガルさんが相手してあげてくださいよ」

「…名前!」

「いつも私にばっかりこの子達の相手を頼むんだから、たまにはお願いしますよ。先輩なんだし」


にやにやとからかうようにそう言えば、軽く頭を叩かれた。

痛いです、という抗議の声は無視されて、相変わらずだなぁと苦笑する。

服を引かれるまま子ども達に向き合う彼の顔にはうっすらとした笑みが浮かんでいるようで、自然と微笑ましい気持ちになった。







仄かに浮かぶ幸せ



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こうちゃ様より、増霊極の実験体の夢主で、夢主と一緒に実験体の子供達とたわむれるウィンガルというリクエストで書かせて頂きました。
ウィンガルさんって、表面にはあまり出さないけど子どもとか割と好きそうかなぁ、なんて。
たわむれてるというより、これからたわむれそうな感じになってしまいましたかね…

こうちゃ様、リクエストありがとうございました!



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