執務室で書類仕事をしている彼の髪をゆるく梳く。

私よりも真っ直ぐで綺麗な髪をしているというのはどういうことなのだろうかと複雑な感情を抱いて、三つ編みでも作ってしまおうかと、思案。

煩わしそうな目でちらりと私を見るだけですぐに書類を書く作業に戻る彼に、つまらないなぁとぼんやりと考える。


「暇」

「なら自室にでも戻ったらどうだ」

「部屋に戻っても暇なことに変わりはないよ」

「プレザにでも構って貰えばいいだろう」

「四象刃はみんな出ていってるじゃない。ウィンガル以外」


私の言葉に小さく溜め息をつく姿に、これは勝ったかな、なんて思って笑みを浮かべる。

ウィンガル、という呼び方は未だに慣れない。

彼がそう名乗るようになってもう何年もたつけれど、幼い頃から呼んでいた名前が自然と出てしまいそうになって困ってしまう。

髪を梳いていた私の手を軽く払い、仕方ないといったふうに私へと視線を向ける。

その動作が嬉しい、なんて、言ったら鼻で笑われてしまいそうだから言わないけれど。


「あ、そういえばね。私昨日、告白されたんだよ」


目を合わせず、冗談のよう軽くそう言った。

あまり話をしない男性からであったけど、そういったことと縁がない私はとても驚いた。

勿論お断りしたが、私にとっては本当に珍しいことであったし、それに対する彼の反応を見てみたかった。

お前に告白するなんて馬鹿のすることだ、とかいうお決まりの嘲笑混じりの台詞が返ってくるのだろうかと思ったのに、何故か反応がない。

不思議に思って様子を窺おうとしたら、強く、手首を握られた。

驚いて相手の顔を見たけれど、そこに浮かぶ焦燥感に満ちた表情に、言葉が出なくなる。


「受けたのか?」

「え…?」

「告白されたのだろう」


真剣な目に、どきりと心音が響いた気がした。

いつも、私に対してそんな目をしないくせに。

気にしてくれている、のだろうかと。

何処か期待してしまっている自分に気付いて、それを押し殺すように挑戦的な笑みを浮かべた。


「受けても、受けなくても、ウィンガルには関係ないことじゃないの?」


私の言葉に、彼の射るような瞳が、熱っぽく揺らいだような気がした。

捕まれていた手に力が込められたのは、意識的にか、無意識的にか。

貴方のことをずっと昔から想っていたから受けてなんていないのだと、そう告げればいいのに、その言葉を飲み込んで貴方を試す私はずるいだろうか。

何かを思案し、慎重に口を開く仕種に、自然と脈が速まる。

視線を逸らすことができなかった。


「言葉で示さないとわからないのか?」

「…何、が」

「俺は、」


言いかけた言葉を、慌てて自分の手で彼の口元を押さえて止める。

ばちんという痛そうな音が響いたけど、相手の心配をするような余裕は私にはなかった。

今までの付き合いが長い分、彼の考えていることはなんとなくだけどわかる。

彼が告げようとしている言葉の続きが理解できて、顔に熱がのぼった。

ああ、きっと、顔が真っ赤だ。

言葉を遮られたことと、彼の口を押さえる私の手の勢いが強くて痛かったのか、眉間に皺を寄せた彼だったけど、私の表情を見て、くつりと笑ったような気がした。


「それ以上は、言わないで」


何処となく揺れてしまった声は、私が動揺しているのだと伝えているようで恥ずかしくて堪らない。

恥ずかしさで目を逸らした隙に、べろりと、手の平を舐められた。

ひぃ!という間抜けな声が出てしまって、慌てて彼の口から手を離す。

挑戦的で少し艶のある、真剣な顔がそこにあって、逃げられないのだと、反射的に気付いた。

囁くようにして告げられた言葉はやけに甘くて、彼らしくなくて。

それなのに何故か泣きそうなほどに喜んでしまっている自分がいて、大きくひとつ頷いた。







言葉ひとつ、想いを込めて



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ななせ様から、ウィンガルさんと幼なじみがくっつく話というリクエストで書かせて頂きました。
ウィンガルって簡単に告白したり、愛の言葉を囁いたりしなさそうだから難しいですね。
少し展開が早かったかなぁ、とか思いますが、ウィンガルって嫉妬とかは結構すぐにしそうかなぁ、と。

ななせ様、リクエストありがとうございました!







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