執務や戦闘に追われる日常の中で、久々の休日というのは大きなものだ。 久々の休日、自室でのんびりとするのも魅力的だけれど、たまには街に買い物をしに行くのもいいかもしれない。 買い物となると、一人よりは誰かと行った方が楽しいだろうか、と。 そういう考えが浮上して、自然と笑みが浮かんでしまう。 さて、誰と行ったものだろうか。 プレザやアグリアと服を見に行くのも楽しそうだけど、彼女達は任務で今城にはいない。 確かジャオも何か任務を任されていたはずだし、一緒に行けそうな人は限られてくる訳で。 「それでね、一緒に買い物行かないかなぁ、って思って」 私の言葉を聞いた二人の反応というものは、なんとも言えないものだった。 二人共無反応は無反応なのに、何かを一生懸命考えているようで、次の言葉を掛けにくい。 最近の仕事も一区切りついているはずだからと訪れたのは、陛下とウィンガルの居る執務室だ。 生真面目というか、いつも仕事に追われている二人だから、たまにはどうかと思ったのだけど。 「…ごめん。やっぱり忙しいよね?」 思わず謝った私に、先に反応を示したのはウィンガルだった。 今まで書いていた書類を一カ所に纏め、座っていた椅子からゆっくりと腰を上げる。 「俺が行こう」 言われた言葉に、正直、驚いた。 誘ったのはもちろん私だったけれど、まさか仕事にうるさいあのウィンガルが一緒に行くと言ってくれるとは思わなかったから。 「いいの?」 「今日だけだ。たまにはおまえの息抜きに付き合うのも悪くない」 珍しいなぁ、と思いつつも、そう言ってくれることが純粋に嬉しい。 ウィンガルが買い物をしているところというのがいまいち想像できなかったけれど、私の買った荷物を少しは持ってくれるかな、と。 そう考えると、ちょっと面白い。 決まったのなら街に行こうと背を向けると、陛下に短く名前を呼ばれ、振り返る。 「ウィンガルはまだ仕事が残っているはずだ」 「え、そうなんですか」 陛下の言葉に、ウィンガルは僅かに眉間に皺をよせた。 不機嫌そうな顔だ、と暢気なことを考えていたら、陛下が薄く笑みを浮かべる。 あ、これも珍しい表情だ、なんて。 陛下の何か企んでいるような表情に自然と身構えたが、掛けられた言葉に驚いて気が抜けた。 「俺でよければ代わりに買い物に付き合おう」 「え、陛下が?いいんですか?」 「俺では不満か?」 そんなことないです!と慌てて言うと、陛下は満足そうに微笑んだ。 今日は貴重な表情を見られる日だなぁ。 自分から申し出てくれるのだから、きっと陛下はご自分の仕事を片付けているのだろう。 しかし、陛下と買い物となると、何かと人目についてしまいそうだ。 どうしたものかと思案していると、不機嫌そうな真っ黒な軍師様が私の腕を掴んで微笑んでいる。 悪い顔だとか、そういうのではなくて、明らかに何か様子がおかしいというか、なんだか気味の悪い表情だった。 ウィンガルはそんな私の心境など知らずに、その射るような視線を陛下に向けた。 そしてそのまま、無言の睨み合い。 私にはわからないような高次元のやり取りが行われているのだろうとは想像できるけれど、ウィンガルは何故ああも陛下を睨みつけるのか。 陛下に仕事が残っていることを言われたのが嫌だったのか。 それとも、それほどまでに買い物に行きたかったのだろうか。 何か必要なものの買い出しをしようとしていたのかもしれない、そう考えると、ウィンガルだけ仕事というのは少し可哀想な気もしてくる。 そんなことを考えていると、ウィンガルはキッと私へと視線を向けた。 次いで陛下の視線も私へ向けられて自然と肩が揺れる。 「名前はどっちと行きたいんだ」 「……はい?」 「お前は陛下と俺とどっちと行きたいんだ」 やけに真剣な二人の視線の意味がよくわからなくて困惑する。 自然と口から出た言葉はとても素直な気持ちだった。 「私は二人と一緒に行きたいんだけど……?」 暫し、沈黙。 その沈黙の意味することが理解できなくて、ただただ空気が重く感じて身動きがとれない。 何かまずいことでも言ったのだろうかと悩み始めたところで、陛下がくつりと、小さく笑った。 「二人と一緒に、とはな」 「……陛下?」 「俺はそれでも構わんが」 余裕そうな笑みを顔に浮かべた陛下はそう言ってウィンガルへと視線を送る。 ウィンガルはそれに小さな溜め息をひとつ吐いて、陛下に挑戦的な目を向ける。 私の手首を握ってゆるく引き寄せて、僅かに口角を上げた。 「受けてたとう」 何を、と私が聞く暇もなく、また二人の視線が交差する。 今のウィンガル、陛下に向かって敬語じゃなかったなぁ、なんて。 たまの休日、少し不穏な空気が流れているような気もしたけれど、やっぱり楽しみたい。 「今日は楽しもうね」 私がそう言えば二人とも優しく微笑んでくれるから、今日はきっと良い日になる。 優しくて不穏な、そんな休日 ----- 唯香様より、久しぶりの休日を貰った天然夢主と出掛けるのを言い争うウィンガル、ガイアスのギャグほのぼのというリクで書かせて頂きました。 天然夢主をあまり書かないので苦戦しましたが、楽しく書くことができました。 ギャグよりはほのぼの寄りかもしれません。 唯香様、リクエストありがとうございました! |