君を閉じ込めてしまいたいと思ったのはいつからだろうか。

ドロッセルが友達だと言って屋敷に連れて来た時?

僕と取り留めのない会話を交わした時?

君の笑顔を見た時?

きっとそのひとつひとつがそうなのだろう。

君が僕に対して、ドロッセルの兄として、カラハ・シャールの領主としての僕に、きっちりと線を引いていることを知っている。

その線は目立たないけれど、確固とした意志が宿っている線だ。

いつからか、その線を越えてしまいたいと思ってしまった。

君の腕を引いて、抱き締めてしまえたら、だなんて。


「名前」


名前を呼べば振り向く君がただ、眩しくて、愛しくて。

完全に惚れてしまっていると自覚する。


「あ、クレイン様!お仕事はよろしいんですか?」

「一応ね。今は大丈夫だよ」

「お疲れ様です」


そう言って微笑む君を見るのが好きだ。

他に人がいない時くらい、ドロッセルと話すように気軽に話してくれればいい。

そう思うが、それを言うときっと君は困った顔をするのだろう。

線をしっかりと引く、君だから。


「……クレイン様?どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」


いつか、その線を越えることができるだろうか。

僕が君を好きだなんて伝えたら、きっと君を困らせてしまう。

だから、今はこの気持ちを必死に押さえ込んでいよう。






君の笑顔のために



(お題配布元:かなし)



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