ひんやりとした壁の冷たさと反対に、握られた手首は痛いくらいに熱かった。

目の前には整った顔。

抜け出そうとしても男女の体格差というのは大きいようで、身をよじることしかできない。

どうしてこんなことになったのだろうか。


「ウィン、ガル」


名前を呼ぶも、目の前の彼はただ無表情で反応がない。

怒らせたのかも、よくわからない。

というよりも、私はこの状況を上手く理解していないのだ。

仕事の報告をしにきただけ、だったはずなのに。

どうして私は壁に押さえ付けられているのだろうか。


「ウィンガル、何して…!」

「先刻、男に詰め寄られていたな」


いつもより少し低めの声でそう言った彼は、やっぱり怒っているようだった。

男に、詰め寄られていた。

正確に言うなら、絡まれていただけだ。

私だって知らない人だったし、興味もなかったので直ぐに逃げて来たというのに。


「あれは、絡まれていただけで…!」

「絡まれていたにしろ」


ふ、と耳元へと顔が寄せられ、呼吸が一瞬止まる。

近い、近すぎる、距離。


「俺にとっては気分の良い状況じゃないな」


そう低く囁いて私の首筋を舐め上げた。

いきなりのことに驚いて声も出ない。

なんとか彼の名前を絞り出すも、不適な笑みを浮かべられるともう何も言えない。


「ウィンガ、ル…っ…!」

「他の男が近付かないようにしておくのも、悪くないだろう」


そう言って、くつりと喉で笑って、僅かに首を傾げる。

ちらりと前髪から覗く鋭い視線から、目を逸らすことができなかった。







あなたの瞳に射られて



(お題配布元:かなし)



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