温かな日差しの午後が好きだ。

ローエンさんが淹れてくれた紅茶を飲んで、ドロッセルと話をして。

ゆったりとした時間がとても濃密で、大切。

ずっと話していたいのにと思っても時間は簡単に過ぎてしまうから、陽が落ちて帰らなくてはいけない時間になると、毎回残念で寂しい気持ちに満たされる。


「名前」


そろそろ帰らなくてはと支度を整えていたら、澄んだ声が聞こえた。

振り返ると仕事が終わったらしいクレイン様がいて、自然と笑みが零れた。


「もう帰るのかい?」

「はい。もう大分陽も落ちましたから」

「お兄様ったら、あんまり名前を引きとめては駄目よ?私だってもっとお話したいんだから」


ドロッセルがそう微笑んで、クレイン様も同じように微笑む。

このご兄妹のこんな笑みを見るのが、本当に好きだ。

温かくて、優しくて、居心地がいい。


「名前、また今度お話しましょうね。絶対よ」


真剣な眼差しでぎゅっと私の手を握るドロッセルはとても女の子らしくて、私もゆっくりとその手を握り返した。


「うん、ドロッセルがいいなら是非とも」


私がそう言うと満足したように微笑んで、別れの挨拶をして自室へと足を向けた。

去り際にクレイン様に何かを言っていたようだったけれど、私の距離からは聞こえなかった。

ただ、クレイン様が少しだけ困ったように苦笑されたのが見えて、微笑ましいなぁ、なんて考える。


「じゃあ、私もそろそろ帰りますね」


あまり長居をしても迷惑をかけてしまう。

そう思って背を向けようとしたら、柔らかい声で名前を呼ばれた。

何だろうとクレイン様を窺うとどことなく真剣な眼差しがそこにあって、どきりと心臓が跳ねた。


「名前、今度は僕と二人で一緒に話さないかい」

「……え?」

「いつもドロッセルとばかりで、僕とはあまり話さないから」

「そんなこと、ないです」


正直、クレイン様と話すのは少し恥ずかしかったりする。

端正な顔をなされてるから直視するのにも照れが混じる。

だから、たまにクレイン様と話す時もいつもドロッセルと一緒だ。


「私なんかと話しても面白くないかもしれませんよ」

「そんなことないさ僕は君と話したいって、ずっと前から思ってたんだから」


そんなこと、言われると困る。

頬にじんわりと熱が集中しているような気がした。

どうしたものかと思案していたら、クレイン様は少し艶のある笑みを浮かべて、悪戯に笑った。


「二人きりで、ね」







そんな君をつかまえたくて



(お題配布元:かなし)



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