いつも無理ばかりする。

そんな印象を抱いたのは、陛下のために働き始めて長い年月がたった頃。

無表情で凛としているから、それに気付く人は少ないのかもしれない。

けれど彼だって同じ人間だ。

増霊極の影響を受けて苦しんでいたことも知っている。

だからこそ、彼が無理ばかりするのを黙っては見ていられなかった。


「ウィンガル」


名前を呼ぶと、ゆっくりとこちらを振り返る。

その短い動作からも、隙のない人だという印象を抱かされる。

刀のよう、という言葉がしっくりとくる。


「何か用か」

「ねぇ、最近寝てないでしょ」


私がそう言うと、彼は何も言葉を発することなく私を見た。

何も言わないのが肯定の意味だということも、わかっている。


「忙しいのはわかるけど、ちゃんと睡眠はとってね」


無理をするな、なんて言っても聞かないのはわかっている。

無理をしてでも陛下や国のために尽くしたい。

それは、私だって感じている気持ちだから。

けれど、だからと言って、無理をして前のように苦しむ姿は見たくなかった。

大事な人だから、貴方がたまに見せる笑顔が好きだから。


「名前」


俯いていた私に影が落ちて、髪を優しく梳かれる。

驚いて顔を上げると無表情にうっすらと笑みを浮かべたウィンガルがいて、どきりと心臓が跳ねた。


「心配をかけたな」


梳かれる指先と声色が予想以上に優しくて、知らない内に涙が頬を伝って落ちた。






優しさに焦らされて



(お題配布元:かなし)



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