「名前って、交際している人はいるのかい」

「……は?」


麗らかな昼下がり。

いい紅茶が手に入ったから一緒にお茶をしよう。

そう誘われて来た私に、クレイン様は優雅に微笑んだ。

いつもと同じ綺麗な笑みだというのに、何故だか今日は少し怖い。

目が笑ってないような気がする。

一体この質問はなんなのだろうか。

私にそういった相手がいるとでもお思いなのか。


「いませんよ。ご存知でしょう?」

「僕が知っている名前なんて、ほんの一部分だけだよ」


もっと深く知りたいと思っているのだけどね、なんて意味深に付け加えられて、私はなんのことだかわからないと言ったふうにティーカップに口をつけた。

あ、これは本当にいい香りだ。

そんな私の様子をじっと眺めていたクレイン様は、ふわりと微笑む。

その笑顔にときめいてしまった、なんて。

分を弁えろ、と心の中で冷静に自分を諭した。


「私なんかに気をつかって下さらなくてもいいのに」

「僕がしたいからしているんだよ」


真剣な目から視線を逸らすのは難しくて、言葉が喉に絡んで出てこない。

やっとの思いで視線を逸らして、ティーカップに注がれた紅茶に移す。

そんなことを、言われてしまうと、私は揺れてしまいそうになるからやめて欲しい。


「僕の我が儘だよ」


耳に届いたのはさっきまでの柔らかな声ではなくて、彼の、クレイン様の、凛とした真剣な声だった。


「僕は君と一緒に、この先を歩んで行きたい」







それはささやかに恋するように



(お題配布元:かなし)



- ナノ -