彼の手が、好きだ。

男の人の骨ばった手なのに、どこかすらりとしている大きな手。

その手が、どうしようもなく好きだと思った。

好きだと言っても、私が彼の手に触れる機会というものはほとんどない。

指を絡め合うようなことはしないし、したとしてもそれはウィンガルが熱にでも浮かされている時だろう。

そうでなければ怖い。とても怖い。


「名前、陛下が呼んでいる」

「あー、うん。今行く」


ウィンガルに呼ばれるがまま隣に並んで歩き出す。

彼の横顔をちらりと見て、私達の距離感なんてこんなものだとぼんやりと考えた。

遠くはない。

近いはず、なのに、距離がある。

それは私達にとって心地の良いものだけど、たまにその距離が煩わしくなる。

手に触れたいとか、そんなことを考えても実行することはない。

柔らかく温かな膜がそこにはある気がした。


「他のみんなはもう先に行ってるの?」

「ああ。お前が最後だ」


陛下に呼ばれて急いでいるはずなのに、さりげなく歩調を合わせてくれているような気がした。

気のせいでなければいいな、なんて。

そんなことを考えている自分が恥ずかしくて、切り替えるように言葉を紡ぐ。


「それは申し訳ない。でもウィンガルが自分から呼びに来てくれるなんてめずらしいね」


私がそう言うと、彼は小さく微笑んだ。

その笑みを見るのは久々に感じて、自然とこちらも笑みが零れる。


「たまには、お前と二人きりというのも悪くないだろう」


言われた言葉は彼にしたらやけに甘くて、何故だか急に恥ずかしくなった私は急いで彼から目を逸らした。

歩いている中、お互いの手と手が僅かに触れる。

その一瞬がやけに長く感じて、顔が火照るのを確かに感じた。







指先からほつれる



(お題配布元:ことばあそび)



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