黎明の都、カン・バルクはとても寒い。

こういう時、冷え症というのは本当に厄介なものだと思う。

手足の指先は痛いくらいに冷え切っていて、動かすことも難しい。

室内でおこなう書類仕事も、冷えた指先ではペンを動かすスピードが落ちてしまう。

一日中室内作業ならそこまでではないが、少しでも外に出ていた日は指が凍りついたように冷えきった。

いつもより書類をまとめるのが遅くなってしまって、またウィンガルに小言を言われるのだろうかと自然と溜め息が零れる。

急ぎ足で彼の元へと迎うが、対面した彼は相変わらずの無表情。

嫌味を言われるかなぁ、とぼんやり考えながら、慎重に口を開いた。


「ウィンガル、今日の書類だけど」

「今日はいつもより随分と遅かったな。そんなに量はなかったはずだが」


ほら、これだよ。

そんなに嫌味っぽく言うことないじゃないか。

これだから、四象刃の中でも一番声が掛けづらいとか兵の中で言われてしまうんだよ。

もう少し柔らかい物言いをすればいいのに。


「遅れてすみませんでしたー」

「名前」

「はいはい、申し訳ありませんでした」


少しおどけて言うだけでこれなんだから、と小さく肩をすくめてから書類を差し出す。

差し出した時にお互いの指先が触れた。

一瞬の間があって、ウィンガルの視線が私の指先に止まっていることに気付く。

何、なんだ、どうしたの。


「ウィンガル?」

「……冷たいな」

「あー、冷え症だから」


私がそう言うと、そっと手を握られた。

え、何、この状況は。

触れられたところからじんわりと熱が広がって、心拍数が上がる。

温かい。

温かすぎて、少し痛いくらいだ。

そんなに握っていたら冷たいんじゃないだろうか、そう思ったけれど、何故だか言葉が出ない。

いつもなら、そんなことしないくせに。


「…温かくなったから離してよ」

「顔が赤いぞ」

「うるさい」







そっと触れてふわりと笑って



(お題配布元:ことばあそび)



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