現ア・ジュール王、ガイアスは民の言葉に耳を傾けてくれる。

近頃私の住む街には魔物が多く出現し、負傷者がたえない。

そのことをガイアス王に伝えるようにと送り出されたが、謁見には少し躊躇ってしまった。

いや、謁見――陛下にというよりは、その陛下の側にいるであろう人物に躊躇った。

黒き片翼、革命のウィンガル。

今はそう呼ばれているその人に、ずっと昔から憧れていたから。

小さき智将と呼ばれていたその時から、同じ部族として、幼いながらに憧れていた。

私はロンダウ語が話せるほど階級が高かった訳ではないけれど、それでも雑用をこなす時に姿を見れた時は嬉しかった。

部族の中の報告で、父に連れられて一度だけ彼と言葉を交わしたことがある。

その言葉がなんだったのかはっきりと覚えている訳ではないけれど、私の中でとても特別な出来事だったのは確かだ。

ぼんやりとそんなことを考えながら、城へと歩みを進める。

噂ばかり流れてきて、彼が今どういったことをしているのかははっきりとわからない。

けれど彼のことだから、幼いながらも部族をしっかりとまとめていたように、今もあの頃のように的確に兵をまとめ、陛下と共に歩まれているのだろう。

謁見の行列の最後尾に回り、小さく息を吐く。

陛下に伝える言葉を頭の中でまとめている時、鎧を纏った兵が数名、慌ただしく城門を駆け抜ける。

魔物でも出たのか、何かに備えてなのか、私には予測できなかったけれど、街の人々の反応からここではそう珍しいことでもないのだろう。

その兵達の先頭にいる人物から、目が逸らせなかった。

真っ直ぐとした黒髪や、瞳や、凛とした空気。

もう何年も見ていないけれど間違いなく彼はその人で、すれ違ったその一瞬が、やけにゆっくりと流れていたように感じた。

走り去っていく後ろ姿を眺めながら、憧れだとか、尊敬だとか、そういうものを感じて笑みが浮かぶ。


「貴方は変わらないんですね」


見えなくなっていく背を見ながら呟いた言葉は、誰に届くでもなく消えていった。







足音だけを響かせて



(お題配布元:かなし)



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