勢いをつける。 出来るだけ早く、助走をつけて、踏み切る。 「ウィンガルさん!」 離れていても聞こえるようにと強く名前を呼べば、私の声に気付いたようで何事かと振り返る。 その、完全に振り返るその前に、彼の腰目掛けて勢いよく抱き着いた。 「…っ…!」 いくら体格差があろうと、振り向き様に、勢いをつけて飛び付かれては流石のウィンガルもその勢いに負けて倒れ込んだ。 倒れた時にごつりと鈍い音がした気もするけれど、それは聞かなかったことにする。 周りに人がいないから大丈夫かな、なんて思ったが、少しやり過ぎたかもしれないと少し後悔。 「…っ名前!」 彼にしては珍しく強められた口調に、やり過ぎたと再度思う。 けれどその後にロンダウ語が続くことなく、彼の口から漏れたのは溜め息だったので、本気で怒ってはいないのかもしれないと少し安心した。 なんのつもりだ、という疑問と怒りと煩わしさが含まれた視線を向けられ、若干気まずくなりながらも彼の腰に回していた腕に力を込めた。 「こ、腰に…」 「……」 「腰に抱き着きたかっただけです!」 そう言った途端、彼は勢いよく私を引きはがした。 その時に舌打ち混じりにロンダウ語で何かを呟いていた気がするけど気にしない。 軽蔑的な言葉が聞こえた気がするけど気にしない。 「ウィンガルさん、凄くいい腰してるんですもの」 「……」 「こう、細いのに細すぎないというか、絶妙な感じで…」 「…お前も細いだろう」 「私のなんか細くないですよ!」 私が言っているのは男性的な細さのことなんだけど、彼にはそれが伝わらないらしい。 伝わらないばかりか、理解できない、というような視線を向けられている気がする。 「…すみませんでした」 視線に耐え切れずにそう謝れば、またひとつ、溜め息。 謝ったけれど、こうやって彼の腰に抱き着けるチャンスなんてもうないんだろうなぁ、なんて考えてしまうと、どうにも自分の欲を抑え切れなかった。 「ウィンガルさん」 もう一回抱き着いてもいいですか、という前に繰り出された彼の蹴りは見事なもので、私の鳩尾に綺麗にヒットした。 目が笑ってない (お題配布元:かなし) |