「クレイン様クレイン様!ちょっと待っ…!ストップストップ!」 「僕は今まで充分に待ったよ」 「そういうのは本当に、あの、洒落になりませんから!」 「それは、僕も本気だから」 ね?と整った顔で首を傾けられると、どうにも流されそうになってしまって困る。 例えば、普段ならクレイン様にこう頼まれてしまったら、仕方ないですね、と苦笑で仕事でもなんでも引き受けるだろう。 けれど、今は今だ。 珍しくクレイン様の自室に呼ばれたので向かってみれば、クレイン様はそれはもう笑顔で、何事だろうかと思ったら素早く押し倒されただなんてそんな…! 冗談でしょう!お気を確かに!と喚く私を抑え込む力はやはり男性のもので、これは本当にまずいのではとじんわりと汗が浮かぶ。 「ク、クレイン様…!」 「本当に嫌なら止めるよ」 しっかりとした、私の意志を確かめるような視線を受けて、上手く言葉が出なくなる。 嫌とか、そういうことでは決してない。 ただ、やっぱり、こいいうことには心の準備というものがいることだから、どうしたものかと戸惑ってしまう。 クレイン様から受ける視線が少し熱っぽい気がするのも、すぐに返答できない理由のひとつなのかもしれない。 握られている手首が、やけに熱い。 「名前?」 「い、嫌とかじゃないです」 ただ、と続きを言おうとしたけれど、クレイン様があまりに綺麗に笑うものだから続きの言葉は声になることはなかった。 触れたところから、拡がる (お題配布元:確かに恋だった) |