現実というものは、やけに淡々と進んでいくように思う。

止まりたくて、戻りたくて、先なんて見たくないし進みたくないのに、現実は勝手に進んでいく。

その流れの数歩先へ行こうとする陛下の、一歩下がったところにいる貴方が好きだった。

私は貴方達の背中を見ることしかできなかったけれど、それでも、その真っ直ぐと伸ばされた背中が何よりも好きだった。

だからこそ、痛感する。


「私は、貴方のようには歩めないよ」


そう呟くが、誰もいない部屋の中では虚しく響くだけだ。

彼は、帰って来なかった。

遺体が見つかっている訳ではない。

けれど、だからと言って彼の生還を願えるような状況では決してない。

それくらいは、もちろん私でもわかっている。

嘘だと、遺体が見つかっていないのだからと訴えるほど、私は子供ではなかった。


私達には、陛下と共に戦うものの代わりはいる。

確かにそれはそうなのだろう。

けれど、代わりでは埋まらないものも、きっとある。

戦力を大きく欠いている現状で感傷的になっている場合ではない。

わかっている。

わかっているはずだった。


それでも――


記憶の中で貴方が的確に策を告げる時の声や、たまに見せる笑顔、指先の温度や、戦場に立つ後ろ姿が、頭の中で思い浮かんで離れない。

貴方との思い出が、あまりにも温かくて、懐かしくて。

貴方が欠けているのだと実感するたびに、手の届きそうな距離にある思い出が、少しずつ薄れていってしまうのようで怖くなる。

陛下の側で歩みを進めていたはずの背中がどんどんと霞んでいく。

私は、貴方さえ無事でいれば、それで良かったのに。







涙の跡が消えなくて



(お題配布元:かなし)



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