先日、彼に好きだと伝えた。

私も女の子と呼ばれる年齢ではなかったし、勿論、そういう意味での言葉だ。

彼が一瞬動きを止めて私を見た時に、彼の黒い前髪が僅かに揺れた。


「……そうか」

「うん、そう」


本当に、数秒のやり取り。

そのやり取りは随分と呆気なくて、本当に私は今この男に告白したのだろうかと疑問に思うほどだ。

彼はそのやり取りの最中にいつもの無表情を崩すことも、声の調子を変えることもなかった。

事務的な報告のようだなぁ、とぼんやり考えながら、彼の背中を見送ったのを覚えている。


それが、数日前の出来事。

それから今日までの数日間、顔を合わせてもお互い何事もなく話したりしているのだから、存外恋なんてそんなものかもしれない。

プレザにそれとなくそのことを話してみると、少し驚いて「貴女達らしいけど」と苦笑していた。

返事が聞きたい、だなんてそんな女の子らしいことが言いたい訳ではない。

けれどやっぱり顔を合わせればどこか期待してしまっている自分がいる。

城の廊下で彼の背中を見つけ、どうして私はこんな男に惚れたんだと小さく溜め息。

それでも足は一人でに彼の方へと歩みを進めている。


「ウィンガル」


名前を呼ぶとゆっくりとした動作で私に振り返る。

その本当に数秒の間に彼が浮かべた小さな笑みに、確かに胸が高鳴る音がきこえた。







揺れる心音ひとつ



(お題配布元:かなし)



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