「準太… ごめん、俺は…」
「もういいですって…それより…」
「なんだ?」
「どうして、ここに…」
「…準太を、奪いにきたんだ」
「……えっ?」
驚く準太を、力任せに引き寄せる。細い体は、あっという間に俺の腕の中に収まった。
さらっと揺れた髪から、またいい香りがする。
「…準太、」
「は、はい……」
「好きだ」
「……!」
大袈裟なくらい、準太の体が震えた。
抱きしめたことで目の前にある準太の耳が、どんどんと赤くなってくのが分かる。
それに、ひどく安心した。
「好きだ、準太。本当は、ずっと、ずっと好きだった」
「…か、かずさん」
か細く、小さな声で名前を呼ばれる。
その声音は、わずかに涙を含んでるように聞こえた。
「今更って思うかもしれない。でも…」
「…ばか!!」
急に大声を出されて、驚いた。
俺の胸元に顔を押し付けてるから、くぐもった声ではあったけど。
埋めてる顔をそっと離せば、漆黒の瞳が揺れている。
そこから透明な涙が溢れて滲んでいた。
「ごめんな…本当に、バカだな…」
「そうですよ! もう! ばかばかばかばかっ!!」
泣いてる顔を見られたくないのか、叫びながらまた胸に縋ってきた。
あやすように頭を撫で、抱きしめる腕に力を込める。
その華奢な体を壊さないように、
そっと。
* * *
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