* * *


着替えが終わり、各々が別れの挨拶を交わしながら、部室を出る。
慎吾から寄り道に誘われていると、遠くの方で背の高いふわふわの頭が見えた。

「あ、また犬っころ来てるぜ」
「犬じゃない、利央だって」

笑いながら訂正すると、利央がそれこそ犬みたいに駆け寄ってきて、また笑ってしまった。

「あれー、何で笑ってんスかー?」
「ははは、いや、何でもないよ。それより、どうした?」

「へへー、じゃーん!」
「ん?」

目の前に掲げられたのは、試験の答案用紙だった。
教科は数学で、右上には『78点』と書いてある。

「おっ! やるじゃないか、利央」
「でっしょ〜? 和さんが教えてくれたからっス!」

いつもは50点いくか いかないかぐらいのモノだったからな。
それに利央が泣きついてきて、たまに勉強をみてやっていたんだけど…うまくいったみたいで良かったな。

「こら。俺が教えてやった古典はどうした?」
「あっ、慎吾さん。いたんですか?」

「アホか。さっきからいたわ」
「古典はまだ返ってきてないんスー。でも、俺の予想だと赤点にはなってないはず!」

「はず、って…お前な、あんだけ教えてやったのにギリギリかよ」
「まぁまぁ慎吾。いい点だといいな」

「はいっ! わー、やっぱ和さんは優しいっスね〜v」
「和さんは、って何だよ。俺も優しいだろが」

慎吾が利央の頭をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。
利央はそれから逃げるようにして、俺の後ろに隠れた。
何か、本当に犬みたいだぞ…。


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