「でも、屋上、で、花井が女の子に告白されてるの、聞いて…」
「え? おまえ、あそこにいたのか?」

「いた。ハシゴ登った、上。花井の声がするって思って、見たら、OKしてたの、聞いたから、俺、もうダメだと、思っ…!」
「…ええ?」

ちゃんと断ったはずだ。
ふと思い返してみて、ピンときた。

あの時、確かドアが急に閉まった。強い風も同時に吹いていたから、てっきり風のせいかと思ってたけど。
もしかしたら、田島が耐え切れなくて、駆け降りてったのかもしれない。

「俺、OKなんてしてねーよ?」
「だ、だって、先輩が好みだ、って言ってたじゃん!」

「適当に返事しただけだ。あの人会計だし、後々困るかと思って…」
「かいけい…?」

予算のこととか、と呟けば、田島の体から ふにゃんと力が抜けた。
どうしたのかと顔を覗き込めば、涙を浮かべつつ笑っていて。

「なーんだぁ、俺のカンチガイかぁ…」
「…そう、カンチガイだ。全部、な…?」

にへへと笑う田島を、これまでにないくらい抱きしめれば、同じくらいの強さで抱き返してくる。
体は小さいけど、やっぱり男だもんな。

「…なー、花井」
「ん…?」

「あのさ、じゃあさ、そのー…俺とまた付き合」
「待った。俺が言う」

「へ?」
「田島が好きだ。誰にも渡したくない。俺と付き合ってほしい。もう、泣かせないから」

恥ずかしげもなく、よくこんなことサラサラと言えたもんだと思ったけど。心底嬉しそうに笑う田島を見て、羞恥心なんてどっかに行っちまったみたいだ。

「へへ、ゲンミツにOKだし!!」
「…そっか、良かった」

そう笑いかければ、田島がじっと俺を見つめてきて。

それに誘われるように、俺たちはキスをした。


初めてキスをした、思い出のこの場所で。





**END**


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