「…はい、そこまで」

冷ややかな声。
誰だと思い顔を上げれば、いつから居たのか、阿部が立っていた。
刺すような視線を向けて、こっちに歩いてくる。

「あ、あべ君…」
「……」

三橋の頬を流れる涙を、さっと拭う。
そしてそのままの流れで、いきなり左頬を殴られた。

「……っツ!」
「…ゎっ!」

俺が痛みの声を上げたのと同時に、三橋も小さく悲鳴を上げる。
突然の衝撃で、体が勝手に後ろへ飛んでった。

一瞬何をされたのか分からなかったが、じわじわとくる頬の痛みに、少しずつ覚醒していく。

「っ……、何すん…!」
「おまえが誰を泣かそうが勝手だけどな」

「ああ!?」
「三橋泣かせてんじゃねーよ」

「あ、あべ君! だ、だだめだよ!」

三橋が阿部の前に立って止める。
たぶん、三橋が止めてくれなかったら、また俺は阿部に殴られていただろう。それぐらい、阿部が殺気立っていた。

「…三橋、帰るぞ」
「え、でも…!」

「こんな馬鹿野郎、放っとけ。自業自得だ」
「ま、待って! 話、まだ 終わって ない、っ!」

「いーから。行くぞ」
「あべく…!」


三橋の制止の声も無視して、あっという間にぐいぐいと連れ帰ってしまった。


一人残った俺は、加速する痛みに耐えるので精一杯で。

それが、三橋の言葉のせいなのか、阿部に殴られたせいなのか、自分への不甲斐なさなのか…判断できなかった。






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