・ ・ ・


沈黙のまま、到着した自分の家。
そこでようやく、掴まれっぱなしだった右腕を離された。

恐る恐る水谷の顔を見ると、未だに表情が消えたままでいる。
焦点が定まらないように濡れた地面を見ながら、俺と目を合わさずに歩き出した。

「ま、待って! か、帰るの…?」
「……」

「…その、話が」
「俺にはないよ」

ぴしゃりと冷たく突き放されて、体が勝手にビクッと震えた。
いつもの甘くて優しい声じゃない…鋭利で、冷やかな声音。

「…今、すっごいムカついてんの。頭に血が上ってるから、まともに話出来そうにない」
「…ご、ごめん…! お、おれが…」

そうだよ! 栄口、今の状況分かってんの!?」
「……!」

大声で怒鳴られて、また体が反応した。
今までも何度かケンカっぽい事した事あるけど、こんなの…こんな水谷、初めて見た…

だから言っただろ! 間に合ったから良かったものの、ダメだったらどうなってたか…!」

「……っ」

「栄口言ったよね、俺がいなくても大丈夫だって。心配なんていらないって。それで何!? この状況になってんだよ!?」

高が外れたかのように、水谷が激怒して大声を上げる。
過去に放った自分の言葉に攻撃されて…鼻の奥がツンとして涙が込み上げてきた。


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