「み、みず…」

俺が声をかける前に、水谷が走りながら拳を振り上げた。
それは勢いをつけて相沢の右頬に振り下ろされ、痛そうな音と共に後ろに倒れていった。

「ぐっ…」

低く唸りながら、床に沈んで痛そうにしてる。
あんな思いっきり殴られたら、そりゃ痛いだろう。

ようやく手が自由になって、若干痺れた手を床につきながら体を起こす。
すると、水谷が横になったままの相沢に馬乗りになって、また左頬を殴った。

「ちょっ、ちょっと! 水谷、もうやめろって!」
「……」

慌てて腕を掴んで制止すると、水谷は無言のまま、相沢を睨みつけたまま動かない。
それでも、肩が震えてるのが分かった。

もう1度水谷に声をかけようかと迷ってると、何も言わずに俺の腕を掴んで教室を出る。
ずんずんと進む水谷の背中からは、激しい怒りの感情が見える気がした。
その圧倒されるオーラに、俺はただついて行くだけ…

…もう、自分が情けなくて仕方ない。
約束破って逆ギレして、水谷の忠告無視して相沢に襲われて、阿部に愛想つかされて、結局は水谷に助けてもらうなんて…

自己嫌悪の海に溺れて、歩くだけでも苦しい。

もう、今この瞬間に消えてなくなってしまいたい…!



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