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シンと静かなリビング。
いつもは賑やかな日常の音が、何ひとつ聞こえてこない。
聞こえてくるのは、やけに大きく鼓動する、僕の心臓の音だけ。
緊張で手が汗ばんでるけど、その手をぎゅっと握って、深呼吸をした。
「…僕は、栄口さんと…栄口さんの家族と、一緒にいたいって思ってます」
ドキドキしすぎて、体が震えてるかもしれない。
小さく搾り出した言葉は、静まり返った部屋に…溶けたように消えていった。
「…本当、ですか?」
少し驚きを含んだ声で返され、はいと返事をしたいけど…でも、それだけじゃないんだ。
この気持ちのまま、ストレートに突っ走りたいけど…臆病な僕は、どうしてもそれをすることができない。
「…でも、怖いんです。一緒にいたい気持ちだけあっても、世の中そんなに甘くないだろうっていう気持ちもあるんです」
栄口さんは男で、僕も男。
男同士でも結婚もできるし、妊娠だって出来るようになったとは言え…女性と比べたら、僕なんて遥かに劣ってるんじゃないかって思ってしまう。
それに、二人の子供のことも。
僕にちゃんと面倒が見れるんだろうか、育てていけるんだろうかって。
今はまだ、週に1〜2回しかこの家に来ていない。それが毎日になっても、僕はうまくやっていけるんだろうか、って。
そして何より不安なのが、時間。
栄口さんと出会って4ヶ月、付き合って3ヶ月。こんなに短いのに、もう結婚してもいいんだろうか、って。
これから一緒に過ごしていく内に、栄口さんが僕に見切りをつけるかもしれない。
僕の粗が目立って、不仲になるかもしれない。
もしそうなった時に、子供達は…僕は、どうなるんだろう。
すべての不安を打ち明けている間、栄口さんは黙って聞いているだけ。
一瞬だけ目が合ったその顔は凄く真剣で…緊張が更に高まって、すぐに視線を逸らしてしまった。
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