「昔の話なんでしょ? 気にすること無いよ」
「え? あ、別に、気にしてるわけじゃ…」

慌てるように、玉子を口に入れた。
どう見ても気になってるって。

「それがどうしたの?」
「うーん…。巣山って、田島みたいなのが好きなのかなー、って思って…」

やっぱり気になってるじゃん!
まぁ、沖と田島が似てるとこなんて、あんまりないもんねぇ。


「んー、憧れとか、尊敬みたいなのじゃないのかなぁ。田島はすごいもん。巣山が田島見て『負けらんねぇ…』って呟いたの、ベンチで聞いたことあるし」
「そ、そうかな…?」

今まで曇っていた表情が、少し晴れた。
あからさまにホッとしてるのに、これで巣山が好きになってるって気づいてないんだから、本当鈍感だよね。

あ、噂をすれば。

「よう」
「あ、巣山!」

巣山が沖に文庫本を渡す。
表紙はブックカバーで隠れてたから内容は分からなかったけど、会話を聞く限り、借りてた本を返しにきたみたい。

「サンキューな、これ」
「早かったね。俺もう読んだから、もっとゆっくりでも…」

「いや、何か面白くて。つい一気に読んじまったから」
「…そっか、良かった」

ふわっと笑う沖に、巣山が一瞬見入ってた。
そして、会話をしながら、さり気なく窓際に立つ。

たぶん、照りつける陽射しの前に立って、優しい影を作ってくれてるんだろう。
男前じゃん、巣山。

「西広も読む? 面白いよ?」
「ああ、うん。じゃあ、借りようかな」
「じゃ、ネタバレでもするか」
「アハハハ!」

さっきまで沈んでたくせに、もうこんなに笑ってる。
鈍感な上に、単純なんだから。

「おーい、沖ー!」
「あれ? なーにー!?」


クラスメイトに呼ばれ、沖がドアの方に向かう。
その間、巣山が沖の座ってた椅子に座り、彼の方を向いた。

「なぁ、西広」
「ん、なに?」

おかずのきんぴらを食べながら返事すると、巣山の眉間に皺が1本、深く刻まれてるのを見た。
巣山が、機嫌悪い時のクセだ。
これも、俺しか気づいてないかもしれないけどね。


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