* * *
「おまたせ〜」
「は〜い! …お? わあああ!」
水谷が声を上げて驚いた。それもそのはず。だって俺が持ってきたトレーの上には、紅茶だけじゃなくて、二種類のケーキも並んでたから。
「す、すごい!! ケーキだぁああ!」
「へへ、久しぶりに作っちゃったよ」
「え!? これ栄口が作ったの!?」
「うん、まぁ…。水谷来るから、ちょっと張り切ってみたv」
「うわあぁぁ……」
心底感心してます、みたいな顔でウルウルと見つめてくる。
何だか水谷がわんこみたいに見えてきた。こんなに喜んでくれるなんて、作った甲斐があったなぁ…。
「ありがとうっ、栄口っ!」
「わわっ! ちょっ…!」
ガバっと抱きつかれて、焦ってしまう。
だって、急にくっつかれたらドキドキしちゃうじゃないか…!
「んんん〜さかえぐちぃ〜v」
「分かったから、もう食べようよ!」
「あ、うん! へへ、どっちから食べようかな〜!♪」
ぐりぐりと頭を撫でられて、かああっと顔に熱が集中する。
それを見られたくなくて、ケーキに矛先を変えさせた。
用意したのは、ベイクドチーズとガトーショコラの二つ。
どっちも材料混ぜて焼けばOKの簡単なヤツなんだけど、水谷はそんなのどうでもいいって感じで、おまけで持ってきた生クリームを、チョコの方にたっぷりつけてニコニコしてる。
生クリーム好きだって言ってたもんね。
準備しといて良かった!
「これ一人で作ったの〜?」
「うん。メレンゲあわ立てる時に、ちょっと弟使ったけど」
「めれんげ?」
「そう。泡だて器でガーッと混ぜるんだけど、なかなかツノ立たなくて疲れちゃってさぁ。弟と交代でしたんだ」
イマイチ伝わってない気がするけど、俺が「疲れた」って言ったら、水谷がますます嬉しそうな顔になる。
「大変なんだ、ケーキ作るのって…。ゴメンね、俺、一生懸命食べるから!」
「あははは、何だそりゃ。どうぞ、召し上がれ」
「いただきます!!」
ぱくっと一口、生クリームを口元につけながら食べられた。昨日のうちに味見したから、たぶんOKなはずなんだけど…?
「ど、どお…?」
「んんんんん〜!!」
フォークを口に突っ込んだまま、また水谷がぎゅううって抱きついてきて。
その反応にホッとしつつも、は、恥ずかしいんだけど…!
「ちょっと、フォーク危ないって!」
「おいしい! おいしいよ!!! スゴイ!!!」
「お店開けるよ!」とか「最高のぱちしえになるよ!」とかバンバン褒めてくれる。
ぱちしえじゃなくて、パティシエなんだけどな。まぁいっかv
「良かったv じゃ、俺も食べよっと」
「俺が食べさせてあげる! はい、あ〜んv」
「ちょ、一人で食べれるから!」
すっかりご満悦の水谷だったけど、そこはさすがに阻止した。ぶーぶー文句言ってたけど、気にしない気にしない。
紅茶も気に入ったみたいで、2回もおかわりしてくれた。水谷の喜ぶ顔が見れて、俺も喜んでしまう。
何だかんだで、俺も結構好きなんだよなぁ…。
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