* * *


「携帯持ってきたか? もしはぐれたら、すぐ電話しろよ」
「はい!」

はぐれてもおかしくないぐらい、境内が人だらけで暑苦しい。
一応は心配したものの…三橋が俺の左袖をしっかり握ってるから、たぶん大丈夫だろう。

やべぇ、このちょっとした仕草にも顔がニヤけてしまいそうだ。
危ない危ない。

「三橋は祭り好き?」
「う、うん! たこ焼き!」

…そうだな、三橋は風流というより食い気だな。
通りに面して並ぶたくさんの屋台を、キラキラした顔で眺めてる。
まぁ、ある程度は予想してたけどな。

「何か食いたいのある?」
「え、えーと〜…!」

人混みのせいでゆっくりとしか進まないのをいい事に、屋台の品定めを始める三橋の目が マジになってる。
7時半近くだから俺も腹減ってるけど、そんな真剣に選ぶか? …選ぶよな、三橋だもんな。

「…あ!」
「ん? どれ?」

食いたいのが決まったのかと思って返事をすれば、三橋の視線の先は屋台じゃなくて通り道の先。
たくさんの頭がある中、見覚えのある坊主頭を見つけた。

あのタッパといい、たぶん花井だろう。
もしかして、花井も田島とデートか?

「行くか?」
「うん!」

傍に行きたそうにうずうずしてるし、と思って提案すれば、即答で返事された。
距離にしては10mぐらいだけど、この人の波じゃ一定の距離を保ったまま近づけそうにない。塊で動いてるようなもんだもんな。

携帯を鳴らしても、この騒がしさじゃ、気付きそうにないし…よし。


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