「…水谷、ありがと!」
「…え?」
抱きつきながら、出来るだけ明るい声音でお礼を言う。ついでに、強張ったままの水谷のほっぺたを、両手で挟んでむにむにしてみた。
「助けてくれたお礼。傍に水谷がいてくれて良かったよ」
俺だって痴漢の男は憎いけど、それで水谷がどうにかなってしまいそうなのが、もっと怖い。
今までの水谷に戻ってほしくて、笑って甘えれば、ゆっくりとだけど抱き返してくれた。
「…ゴメンね、栄口」
「何が?」
「俺が、もっと早く気付ければ…」
「んーん。水谷は何も悪くないよ? むしろ、格好良かった!」
「ほんと?」
「うん、惚れ直しちゃった!」
水谷の背中をぽんぽんしたら、俺の耳元でクスって笑った。そして、背中に回された手が、俺の髪を梳くように撫でてくれる。
その動きがとても優しくて…いつもの甘い水谷に戻ったみたいだ。
「もう、最初見た時ビックリしたよ〜…」
「俺もビックリしたよ、アハハ」
何か変に笑えてきて、ついクスクス笑ってしまう。
すると、さっき俺が水谷にしたみたいに、今度は俺がほっぺたをむにむにされた。
「もう、笑い事じゃないでしょ!」
「アハハ、ごめんごめん」
だっておかしいんだもん、って笑えば、「も〜…」って言いながら笑ってた。
俺が笑ってるのは、水谷が"俺のことでこんなに怒ってくれる"ってのが分かったからなんだけど…気付いてないみたいだ。
ちょっと驚いたけど、水谷の新しい一面が見れたのは嬉しいなーって思う。
俺って、もしかして楽観的かな?
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