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警察だと名乗った人と一緒に降りて、駅員に引き渡した後。
いろいろ面倒なことはしたくなかったから、事情を話した後はすぐに帰らせてもらうことにした。
俺が喋ってる間、水谷はずっと黙ってて、弱そうな男をずっと睨んでる。もう帰ろうと水谷を誘い、立ち上がらせるまで、ずっと。
こんな怖いオーラを出しながら、鋭い目つきをする水谷は初めて見る。
いつものふんわりした空気は張り詰めていて、西浦駅に着いてもずっと無言のまま。
電車を降りて、俺の家に向かって歩いてる途中…徐々に水谷の気持ちが落ち着いてきたのか、ようやく「栄口…」って名前を呼んでくれた。
「な、何…?」
「少しだけ、家に行ってもいい?」
「う、うん。いいよ…?」
「ありがと…」
それだけ喋った後、また沈黙。
それは、俺の部屋に入り、荷物を下ろして座った時まで続いていた。
「…栄口」
「ん…?」
「今までも痴漢に遭ったことある?」
「へ?」
あるわけないじゃないか、そんなの。
自分が痴漢されるなんて、夢にも思ってなかったことだったよ、と伝えれば、水谷がホッと息をついた。
「そっか…」
「…あの、ゴメンね? せっかくのデートだったのに、気分が台無しになっちゃって…」
「栄口が謝る事なんてないよ。全部アイツが悪いんだ。…アイツ、マジでムカつく…!」
思い出したのか、また水谷のオーラが怖くなっていく。そんな水谷は見たくなくて、思わず抱きついてしまった。
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